ただ、それは私が想定したこの世界の文字ではなく、なんとも懐かしい文字の並びだった。

「日本語……!」

 私はこの世界で見ることはなかった、自らの故郷の文字を見つけて声をあげる。
 目をこすって何度も見てみるが、それは日本語以外の何物でもない。

「え、なんで……」

 私は馴染みがあるその文字を読んでいく。
 比較的新しいその本はどうやら誰かが書いた日記のようなもので、拙い文字というよりまるでそれを母国語として扱って書きなれているというような字面だった。
 この世界の年号と照らし合わせて、どうやらちょうど100年ほど前のものらしい。

 私は凄まじい勢いでそれを読んでいくと、ある文章に目がいく。

「聖女である私……」

 ではこの日記は聖女の手によって書かれたもの。
 聖女だから異世界の言語を書けた……?

 いや、それよりも自然な考え方としては──

「聖女は私と同じ日本から来た?」

 他に手がかりがないか私はページを何度もめくっていく。
 この国の文化のこと、人のこと。
 様々なことを初めて知ったような感じで書かれている。