帰ってきて、早速「れもきみ」を開いてベッドに倒れ込む。
 疲れたなぁ…。
 なんとなく、読む気にはなれなくて、そのまま天井に目を移す。

「…紺野くん…。変な人だなぁ…。」

 この典型的な陰キャに話しかけ、一緒に本を買いに行き、それでも飽き足らず、まだ仲良くしようとする。紺野くんの頭の中を見てみたい。

***

「へえ…。こういう系ね…?ちょっと意外かも…。」

 ぶつぶつと呟きながら、俺・紺野蓮は、妹から奪ってきた「れもきみ」の1巻を読んでいた。
 これを読んで、「きゅん」みたいになったりするのか?椎奈さんが?あんまり想像できない。

『あ!青くんおはよう!』
『…ん。』
『も〜、ちゃんと返事してよ〜。』
『めんどくさい。』

 …え?挨拶をめんどくさがるって、どんだけめんどくさがりな性格なんだよ!挨拶くらいしろよ!
 思わず、檸檬の味方にならざるを得ない。たぶんここから、青がいい感じになっていくんだろうな〜。
 椎奈さんと話したいから、ちゃんと覚えとかないと…。椎奈さんは、やっぱり檸檬が好きなのかな。いや、青の方が好きだったり?
 半分興味、半分勉強のような気持ちで読み進めた。
 …だが、少女漫画の話は辛いことがある。
 俺が30分後、3巻を読んでいた時に起こったことだ。

「うわぁ…。これは話せねえって…。」

 椎奈さんは、女子。俺は男子。なんなら、付き合ってるわけではない。
 つまり、シーンによっては話しづらいのだ。いや、流石に青と檸檬が手を繋いでいるところは、まだ大丈夫だと思う。だが…流石にキスシーンは話せない。こちらから切り出すと、完全にヤバいやつと思われてしまいそうだ。
 キスシーンの前で、悶々と考え込んでしまう。
 …よし。別のいいシーンを覚えておこう。こういうのは切り替えが大事だ。

 椎奈さんが好きなのかと言うと、そうではない。これは本当に、ただの興味だ。「隣の席のやつとは仲良くしたい」。ただそれだけだ。
 でも、少し今回は変な気がする。いつも以上に俺が熱心な気がする。
 たぶんそれは、椎奈さんが俺を嫌ってるせい。
 嫌いになればなるほど、仲良くするやりがいがある。まあ、自己中なのは分かってる。けど、仲良くなれたらいいな…と思ってしまうのだ。殴るのなら俺の頭を殴ってくれ。