「あ、これかー!へ〜。…椎奈さん、こういうの好きなんだね。」

 本屋の、少女漫画コーナーの前。紺野くんの手中には、黄色と水色が目を引く、爽やかな表紙の最新刊があった。私も手に取って眺める。今回は檸檬ちゃんが表紙か。可愛いなぁ…。
 檸檬ちゃんがワンピース姿で花束を持っている。にっこりと優しく笑っていて、あったかさまでも感じさせる絵だ。

「まあ…。嫌いでは…ないです…。」
「俺も読んでみようかな…。」
「え…?」
「いや、椎奈さんが読んでるなら、俺も読んでみたくなっちゃって。これ読んで、椎奈さんの漫画の好みを把握するぜ!」
「…それも自己満足ですか…?」
「そーだね。でも、こういうこと俺好きだから。意味のない、くだらないこと。」
「…紺野くん…何読むんですか?」
「え?」

 なんとなく、こちら側だけ詮索されるのは気まずいので、こちらからも聞いてみる。紺野くんは、拍子抜けしたような声をあげてこちらを見た。そして、すぐさまお得意の笑顔を見せる。

「いや〜。俺、あんま漫画とか読まなくて…。友達からおすすめされて借りたやつとかは読むけど…。」
「そうですか。」

 それ以外に返答が思いつかなくて、つい、そっけない返事をしてしまう。
 紺野くんはどうやら、他人への興味は人一倍あるみたいだが、自分語りは苦手なようだ。

 そのまま私たちは、本屋を後にした。

「…椎奈さんって、趣味とかある?」
「…読書です。」
「あ〜確かに、よく本読んでるよね。」
「…あと…ゲームを少々…。」
「え!?そうなの!?全然イメージないわ〜。何するの?」
「…RPGとか…まあ…色々…。」
「へ〜。俺もRPG系好きなんだよね〜。」
「そうなんですね…。」
「なんて言うの?こう、単発のゲームもいいんだけど、ストーリーがある方がその世界に没入できるっていうか…。俺的には、ストーリーあった方が好きなんだよね〜。」
 少し意外だ。陽キャはみんなで盛り上がれるような単発ゲームの方が好きかと思っていた。

「…そうなんですね…。」

 でも私は言えない。さらにこの話を掘り下げられない。今日はもう、クラスメイトと話したという功績を残した。それだけで十分だ。口が疲れた。
 思わず、ため息が出てしまった。

「…椎奈さん、俺のこと苦手でしょ。」
「えっ…。」
「なんとなく分かるよ。」
「………。」
「…まあ俺はそんなこと無視するけどね〜。自己中だから。」
「………。」
「嫌いなら、それでいいよ。」

 顔に出ていただろうか。雰囲気で察せられた?
 紺野くんは、何かが違う。そう感じた。
 嫌いならそれでいい。ほんと…つかめない人だ。