「歌奈ちゃん、テレビは一日一時間ね」
アニメをたくさん見せてもらえなかったのがちょっと残念だったけど、物腰のやわらかい七恵さんに、私は少しずつなついていった。
ある日の夕方。その日はお父さんも早く帰ってきていて、めずらしく三人で夕飯をかこむことになったのだけど。
「はるちゃん、夕飯はなにが食べたい? なんでもリクエストしてくれていいわよ」
やさしくほほえむ七恵さん。
好きなものなんでも頼んでいいんだ。どれにしようかな?
えーと、えーと……そうだ!
「あのねー、サザエの炊き込みご飯!」
すると、父がテーブルをドンッ! とたたいた。
「歌奈! そんなもの食べたがるな。他のにしなさい!」
さっきまで笑顔だった七恵さんも、すっかり表情を失っている。
「歌奈ちゃん、あのね。子どもはハンバーグとかスパゲティーとかそういうものが好きなのよ。はるちゃんだってそうでしょ?」
「でも……」
どうして?
サザエの炊き込みご飯は、うちのおばあちゃんが作ってくれる私の大好物なのに。
みるみるうちに頭の中が「?」マークでいっぱいになった。
なんで? さっきなんでもいいって言ったくせに。なんでふたりともそんなに怒るの?
確かにハンバーグもスパゲティーも好きだけど、他のもの選んじゃいけないなら、最初からハンバーグとスパゲティーどっちがいい? って聞けばいいのに。へんなの、大人って、へんなの。
その一件以来、私はお父さんに会わなくなった。お父さんから何度か連絡があったが、すっかり足が遠のいてしまった。後にお母さんから、七恵さんは、ほんとうはお父さんの「ゴサイ」で、あのときお腹のなかにいたのは私の「イボきょうだい」だと聞かされたけど、ゴサイもイボきょうだいも私にはどうでもよかった。それよりも、サザエの炊き込みご飯を否定されたことがショックだった。
アニメをたくさん見せてもらえなかったのがちょっと残念だったけど、物腰のやわらかい七恵さんに、私は少しずつなついていった。
ある日の夕方。その日はお父さんも早く帰ってきていて、めずらしく三人で夕飯をかこむことになったのだけど。
「はるちゃん、夕飯はなにが食べたい? なんでもリクエストしてくれていいわよ」
やさしくほほえむ七恵さん。
好きなものなんでも頼んでいいんだ。どれにしようかな?
えーと、えーと……そうだ!
「あのねー、サザエの炊き込みご飯!」
すると、父がテーブルをドンッ! とたたいた。
「歌奈! そんなもの食べたがるな。他のにしなさい!」
さっきまで笑顔だった七恵さんも、すっかり表情を失っている。
「歌奈ちゃん、あのね。子どもはハンバーグとかスパゲティーとかそういうものが好きなのよ。はるちゃんだってそうでしょ?」
「でも……」
どうして?
サザエの炊き込みご飯は、うちのおばあちゃんが作ってくれる私の大好物なのに。
みるみるうちに頭の中が「?」マークでいっぱいになった。
なんで? さっきなんでもいいって言ったくせに。なんでふたりともそんなに怒るの?
確かにハンバーグもスパゲティーも好きだけど、他のもの選んじゃいけないなら、最初からハンバーグとスパゲティーどっちがいい? って聞けばいいのに。へんなの、大人って、へんなの。
その一件以来、私はお父さんに会わなくなった。お父さんから何度か連絡があったが、すっかり足が遠のいてしまった。後にお母さんから、七恵さんは、ほんとうはお父さんの「ゴサイ」で、あのときお腹のなかにいたのは私の「イボきょうだい」だと聞かされたけど、ゴサイもイボきょうだいも私にはどうでもよかった。それよりも、サザエの炊き込みご飯を否定されたことがショックだった。