びっくりしちゃった。
 この間は演劇なんてキョーミねぇ、観たくもねぇとまで言ってたのに。
 なんで瀧口くん、演劇部のことかばってくれたんだろう。
 ひょっとしたら……?

 翌日の放課後、部室棟の付近でウロウロしていると。
 あ! やっぱりあらわれた!
「瀧口くんっ!」
 目の前におどり出ると、瀧口くんは、うわっ! と後ずさった。
「サル女か。なんのつもりだ、いきなり奇襲なんかかけてきて」
 奇襲???
「ちがーう。そんなんじゃない!」
 私ってば、いつもまでたっても野生動物扱い?
「じゃあ、なんなんだよ」
 不審なまなざしを向ける瀧口くんに、
「分かっちゃったの」
 と、私はほほえむ。
 瀧口くんの眉がわずかにピクリと動いた。
「なにがだよ」
「あなた、実は演劇好きでしょ?」
 私はビシッ! と瀧口くんに指をさす。
 絶対に、絶対にそうに違いない!
 心の奥をズバリ言い当ててみせた!
 そう確信したんだけど。
「ちげーよ、バカ」
 そんな言葉でか~るく一蹴されちゃった。
「ウッソだぁ?」
「ウソじゃねぇ」
「ホントは興味あるんでしょ?」
「観たくもねぇつったろ? もう忘れたのかよ」
 そ~んなぁ……。
「じゃあ、どうして?」
「は?」
「なんで昨日、うちの部がからかわれてるとき怒ったの?」
 すると、瀧口くんは私から目をそらすようにしてつぶやく。
「それは、あれだよ」
「あれって?」
 私が聞き返すと、瀧口くんは少し顔を紅潮させながら、
「お前ら、マジメに取り組んでたみたいだったから」
 と答えた。
「ひとの好みはそれぞれだからな。苦手なものもあれば、なにがおもしろいのか分からねぇものもある。だけど、自分の苦手な分野や理解できないものに真剣に向き合ってるヤツらをバカにしたり、笑いものにすることはルール違反だ。それが気にくわなかった。それだけだ」
「それだけ?」
「あぁ」
「ほんとうに、それだけ?」
「しつこいな、そうだって言ってるだろ?」
 そうなんだ。
 それだけなんだ。
「それだけのために、あんなに怒ってくれてありがとう。瀧口くんのこと、口の悪い男子だなって思ってたけど、あのときはなんか胸がスカッとしたよ」
 ふふふっ、と自然に笑みがこぼれてきた私とは逆に、瀧口くんはムカッと顔を引きつらせてる。
 口の悪い男子って言ったこと、カチンときちゃったかな?
「なぁ」
 瀧口くんが私に視線を向ける。
「どうしてそこまで一生けん命になれんの?」
「なにが? あ、部活のこと?」
「演劇つっても、必ずしも観客が観に来てくれるわけじゃねーだろ? 練習してるだけでああやってバカにされたりして。なんでそれでもやってるわけ?」
 なんで……? かぁ。
「確かに大変なことも多いし、つらいこともあることはあるんだけど」
 でも、ずっと続けてるのにはちゃんと理由があるの。
「私ね、昔会った王子さまを探してるんだ」