「なんで演劇部って人気ないんだろうね? 映画やドラマはあんなにみんな観てるのに。舞台だって、今2.5次元舞台めっちゃ流行ってるし」
 とぼとぼとあてどなく中庭を歩きながら、ついそんなことをこぼすと、ゆめちゃんが、なに言ってんのと口をとがらせた。
「あれは有名人が出てるからでしょ? あたしたち無名の人間が出てる舞台なんて興味あるひと、ほとんどいないって」
「う~ん、でもそれを言うなら、他の文化部だっていっしょじゃない? 別にプロの子たちがいるわけじゃないのに」
「他の部はひと目見て分かるカッコよさがあるから。演劇部は、ストーリーをちゃんと観ないと分からないでしょ? 想像力も要求されるし」
「そうかなぁ。演劇もひと目見て分かるカッコよさがあると思うけど」
 私はそれで演劇やりたいって思うようになったんだもん。
 小さいころ、おばあちゃんに連れられて行った公民館のステージ。
 そこには確かにいたの。
 私にとっての大スターが。
「あっ」
 偶然、向こうから歩いてくる人物と目が合った。
 黒髪の、颯爽とした長身の男子。
 わっ、またあのひとだ。確か、瀧口くんって名前だっけ。
 思わずペコッと会釈すると、
「サル女か」
 と、容赦のないひと言。
 うぅ……まだこないだのこと根に持ってるのかな???
 トボトボと通りすぎようとしたとき、
「今日、練習は?」
 えっ?
 意外なひとことに、思わずふり返った。
「やってねーのかよ、部活」
「そ……それが、今日立ち稽古するはずだった部屋が使えなくって。しょうがないから部室棟でやろうって、今から――」
 長机とか片付けないと、身動きとれないからホントは部室棟でやるのイヤなんだけど。
 しどろもどろになりながらそう説明すると、
 瀧口くんは、特に興味もなさそうに
「あっそ。部室棟で暴れて物壊すなよな」
 と、だけつぶやいて、その場をあとにした。
 なに、あの言いかた。
 私、あのひとにそんなに恨み買うようなことしたかなぁ?
 私のこと助けたの、そんなにイヤだったの……?
「てゆーかさ。瀧口くん、なんかいつも歌奈の近くにいない?」
 ゆめちゃんがポツリとそう口にした。
「そう!? それを言うなら、ゆめちゃんのほうが近いところにいるでしょ。同じクラスなんだし」
 ゆめちゃんはかけていたメガネを片手で直しながら、
「だけど、あたし、あんなふうに瀧口くんのほうから話しかけられたこと一度もないよ。瀧口くん、ふだんはクラスのほとんど誰とも口聞かないし。今、歌奈としゃべってるの見てビックリしちゃった」
 そうなの?
 でも、どうせなら。
 ただのワガママかもしれないけど。
 あんなカッコよくてクールな男子なら、もっとフツーに出逢いたかったなぁ。
「サル女」
「暴れて物壊すなよな」
 これじゃあ、まるで……まるで猛獣扱いじゃない!
 だいたい、私が演じてるのはサルなんかじゃないのに。
 深くて冷たい雪の中に消えた大切な男の子を、たったひとりで探してる、ただの小さな女の子なのに。