そうなんだ。
 一匹狼って感じのひとなのかな?
 だけど――。

「昨日私のこと助けてくれたの、あのひとなの」
「ウソ? 瀧口くんが、歌奈のことを?」
「うん。でもそのあと、めちゃくちゃ怒られた。死ぬ気か!? とか、さっきもサル女って言われたし」
 グスンとヘコんでいる私に、ゆめちゃんはフッと笑みを浮かべた。
「サル女……ピッタシじゃない」
「ひどーい、ゆめちゃんまで!」
「歌奈にはそんくらい言わないと分かんないでしょ。ほっとくとすぐに暴走するんだから。でも、なんかヘンね」
「なにが?」
「瀧口くん、どうして昨日あの場所にいたのかしら。校舎裏よ? なんでわざわざそんなところに用事があったんだろ」
 そう言われてみればそうだ。あのへんは、放課後に部活中の子が行き来する程度。
 でも、瀧口くんってひと制服姿だったし、特に体育会系の部活やってるわけでもなさそうなのに。
 なんにせよ、あのときあのひとがいなかったら、私命が危なかったかもしれないんだよね。
「サル女」呼ばわりは、やっぱりちょっとムカつくけど……。

「みんなゴメ~ン。今日、体育館ステージ使えないんだって」
 数日後の放課後。
 北原部長が申し訳なさそうに私たちに頭を下げた。
「大会が近いから今週、来週はずっとダンス部が利用することになったみたい。ゴメンね、ちゃんと前もって確認すればよかった」
 チラッと舞台袖からのぞいてみると、三十人くらいの女子部員が一堂に集まって練習してる。
「うわぁ、ダンス部ってあんなにたくさんいるんだ。すごい人気」
 まるでプロのアイドルみたいに気合い入ってる。
「視聴覚室もダメですか?」
 ゆめちゃんの質問に、部長は眉をひそめて。
「視聴覚室は軽音楽部が、音楽室はコーラス部が使ってるからダメなのよ。他の教室も今日は空いてないみたいだし。困ったな、立ち稽古進めたかったんだけど」

 ダンス部はもちろん、軽音部もコーラス部も。
 みんな文化系では特に人気の部活。
 部員もたくさんいるし、練習場所も、設備も充実してる。
 だけど、私たちの演劇部はそうではなくて。
 部員は私を入れてたった六名。
 高三の先輩たちが受験準備のため引退したんで、今は部長たち高二生が四名、私たち光一が二名。
 いちおう部室棟は用意されてるけど、すっごく狭くて練習は本読み程度がやっと。
 立ち稽古をするための場所は決められてないので、毎回空き教室を探して回らないといけなくて、これがまた大変。
 顧問の先生はいることはいるけど、授業が忙しいってめったに部活には顔を出さない。
 規模が小さいから仕方ないのかもしれないけど、なかなかの逆境にさらされているわけで。