「あ」
 夕暮れの空に、キラリ。
 白い星明かりが灯ってる。
「スピカだ!」
「は?」
 きょとんとしているゆめちゃんに、私はほらほらと指を差す。
「あれあれ、あの星がスピカだよ。白く光ってるやつ。キレイでしょ?」
「へぇ、名前は聞いたことあるけど。歌奈って星くわしいんだね。なんか意外」
「てゆーか、スピカしか分かんないんだけど」
 ゆめちゃんが、ガクッとずっこける。
「なにそれ? なんでそれだけしか知らないの?」
「へへっ、ちょっとね」
 スピカ。
 ひときわまぶしく輝く、あの真っ白い星。
 久しぶりに見られた。
 私がはじめて知った、お星さまの名前。
 今日はいろいろあったけど、一日の終わりが幸せでよかったな。

 翌朝。
「うぅ~、眠い」
 昨日遅くまで台本読んでたから眠くてたまらないや。
 でも、何回読んでもセリフ覚えるの苦手なんだよね。
 ふあぁ、と大きなあくびをつきながら、ゲタ箱で靴をはき替えようとしたとき。
 ドシン! となにかにぶつかった。
 目の前には高い壁……じゃなかった。
 背の高い男子が、ギロッと私のことをにらみつけてる。
「ご、ゴメンなさ――」
 あれ? このひと、昨日会ったひとだ!
「今度はなんだ。頭突きの練習か?」
「いえっ! ボーッとしてて」
 あわてて首を横に振ると、
「もう二度とあんなバカなマネすんじゃねーぞ。サル女」
 冷たくそっぽを向かれてしまった。
「サル……」
 端正な顔とは裏腹の、トゲトゲしい言葉がグサッと胸につき刺さる。
 助けてもらった立場だから、あんまりひどいこと言いたくないけど、ちょっと失礼じゃない?

「おはよ、歌奈。どしたの、元気ないね」
「あっ、ゆめちゃん。朝からちょっと……グサッとくること言われて」
「グサッとくること?」
「ほら、あのひと」
 そっと指をさして教えると、
「あぁ、瀧口くんじゃない」
 と、ゆめちゃんが口を開いた。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、おんなじクラスだもん」
 え? ってことは、同級生なの?
 大人びてるから、てっきり先輩だと思ってた。
「それに、よくも悪くも評判だし」
「評判?」
「瀧口くん、人気モデルばりの外見だから、入学当時からクラスの女の子たちにすごい人気あったの。だけど、瀧口くん自分に声かけてきた女の子、片っぱしからフッちゃったんだって」
「そーなの!?」
「あげくの果てには、もうオレにまとわりつくんじゃねぇ、とまで言い放ったみたいで。女の子とは距離置いてるし、かといって男友だちともつるんでるわけじゃないし。なんでかいっつもひとりでいるのよね」