「なんでそんなことしたのーっ!」
そして、部室に戻ってきた私を待ちかまえていたのは、耳をつんざくような北原部長の怒声。
「え、えっと。役の参考になればなって……」
しどろもどろになっている私を、北原部長はズンッと見下ろしている。
「あのね、確かに今度の主役は春名さん、あなただよ。だけど、命張ってまで役になりきれなんて頼んでないんだけど!」
うう、この威圧感。押しつぶされちゃいそう。
「やっぱ、部長がやれば? 主役。一年の子には荷が重いっしょ」
そう提案したのは、二年の鹿山先輩。
透明感のある白い肌に、明るい茶色の髪がよく似合っているイケメン。
背が高くて、手足もスラッとしてて、自他ともに認めるアイドル的存在。
「あたし? ムリムリ。アンタも知ってるでしょ? あたし、今まで老け役ばっかりやってきたもん。少女役なんて似合わないって」
すると、鹿山先輩はあきれたように顔をゆがめて。
「現役JKが言う言葉か? それ」
「うっさいわね! ひとには向き不向きってモンがあんのよ!」
北原部長の怒りの矛先が私から鹿山先輩に変わった。
これはまずい。このままじゃ鹿山先輩まで集中砲火浴びちゃう。
「すみませんでした、北原部長。私、高校入学してはじめて主役できることになったから、つい張り切っちゃって」
シュン、と頭を下げると、部長の怒りも少し和らいだようで。
「ま、気持ちは分かるけどね。主役にケガなんかされちゃ困るのよ。うちの部は代役なんて立てる余裕ないんだから。しっかりしてよね、しっかり!」
バシン! と平手でわたしの背中をたたいた。
いたたた。部長、そこまで気合入れなくても。
だけど、主役降ろされなくてよかった。
せっかく手に入れた役なんだもの。
「ふふふ、いいね。歌奈ちゃん。青春真っ盛りって感じで」
やさしくほほえんでいるのは、夏川先輩。
ちょっぴりウェーブのかかった茶色いロングヘア。
パッチリとした目に長いまつ毛がくるんとしてて、陶器のような肌に、ほんのりとピンク色がさしている。
「私も、歌奈ちゃんくらい情熱があればなぁ」
外見だけでなく、性格もやさしくて、まさにお人形さんのような美少女。
だけど、今度の舞台で。
私は、このひとと決死の対決をくり広げるのだ。
「まったく、熱血すぎるのよ。歌奈は」
部活の帰り道。
ゆめちゃんが私を見て大きなため息をつい た。
「えーっ、そうかなぁ?」
「ひとつの役にのめりこむのって、よくないんだよ? いろんな役をまんべんなくこなせるのが演者にとっては重要なんだから」
ゆめちゃんは、クラスはちがうけど私とは同じ学年。
背は私よりもちっちゃいけど、私とはくらべものにならないくらい、いつも冷静で大人びている。バッサリ切りそろえた短めのボブにべっこう眼鏡が知的な印象を引き立ててる。
演劇部でも、ひとつの役に集中するより何役かの脇役を演じ分けるほうが好きなんだって。
「でも、私はやっぱりひとつの役を大切に演じたいなぁ」
「本気でそう思ってんだったら、今日みたいに暴走しすぎないことね。運よく助けてくれたひとがいたからよかったものの、あやうく地面に落ちてペッチャンコになるところだったんだから。やる気があっても、死んじゃったらどうにもならないんだから。命の恩人に感謝するのね」
「感謝かぁ……」
確かにいいひとだった。
全然知らない私のこと助けてくれて。
目つきもキリッとしてて、体格もしっかり。
クールな雰囲気でカッコよかったけど。
「そんなもん、観たくもねぇ」
……なにもあんな言いかたしなくたっていいのに。
そして、部室に戻ってきた私を待ちかまえていたのは、耳をつんざくような北原部長の怒声。
「え、えっと。役の参考になればなって……」
しどろもどろになっている私を、北原部長はズンッと見下ろしている。
「あのね、確かに今度の主役は春名さん、あなただよ。だけど、命張ってまで役になりきれなんて頼んでないんだけど!」
うう、この威圧感。押しつぶされちゃいそう。
「やっぱ、部長がやれば? 主役。一年の子には荷が重いっしょ」
そう提案したのは、二年の鹿山先輩。
透明感のある白い肌に、明るい茶色の髪がよく似合っているイケメン。
背が高くて、手足もスラッとしてて、自他ともに認めるアイドル的存在。
「あたし? ムリムリ。アンタも知ってるでしょ? あたし、今まで老け役ばっかりやってきたもん。少女役なんて似合わないって」
すると、鹿山先輩はあきれたように顔をゆがめて。
「現役JKが言う言葉か? それ」
「うっさいわね! ひとには向き不向きってモンがあんのよ!」
北原部長の怒りの矛先が私から鹿山先輩に変わった。
これはまずい。このままじゃ鹿山先輩まで集中砲火浴びちゃう。
「すみませんでした、北原部長。私、高校入学してはじめて主役できることになったから、つい張り切っちゃって」
シュン、と頭を下げると、部長の怒りも少し和らいだようで。
「ま、気持ちは分かるけどね。主役にケガなんかされちゃ困るのよ。うちの部は代役なんて立てる余裕ないんだから。しっかりしてよね、しっかり!」
バシン! と平手でわたしの背中をたたいた。
いたたた。部長、そこまで気合入れなくても。
だけど、主役降ろされなくてよかった。
せっかく手に入れた役なんだもの。
「ふふふ、いいね。歌奈ちゃん。青春真っ盛りって感じで」
やさしくほほえんでいるのは、夏川先輩。
ちょっぴりウェーブのかかった茶色いロングヘア。
パッチリとした目に長いまつ毛がくるんとしてて、陶器のような肌に、ほんのりとピンク色がさしている。
「私も、歌奈ちゃんくらい情熱があればなぁ」
外見だけでなく、性格もやさしくて、まさにお人形さんのような美少女。
だけど、今度の舞台で。
私は、このひとと決死の対決をくり広げるのだ。
「まったく、熱血すぎるのよ。歌奈は」
部活の帰り道。
ゆめちゃんが私を見て大きなため息をつい た。
「えーっ、そうかなぁ?」
「ひとつの役にのめりこむのって、よくないんだよ? いろんな役をまんべんなくこなせるのが演者にとっては重要なんだから」
ゆめちゃんは、クラスはちがうけど私とは同じ学年。
背は私よりもちっちゃいけど、私とはくらべものにならないくらい、いつも冷静で大人びている。バッサリ切りそろえた短めのボブにべっこう眼鏡が知的な印象を引き立ててる。
演劇部でも、ひとつの役に集中するより何役かの脇役を演じ分けるほうが好きなんだって。
「でも、私はやっぱりひとつの役を大切に演じたいなぁ」
「本気でそう思ってんだったら、今日みたいに暴走しすぎないことね。運よく助けてくれたひとがいたからよかったものの、あやうく地面に落ちてペッチャンコになるところだったんだから。やる気があっても、死んじゃったらどうにもならないんだから。命の恩人に感謝するのね」
「感謝かぁ……」
確かにいいひとだった。
全然知らない私のこと助けてくれて。
目つきもキリッとしてて、体格もしっかり。
クールな雰囲気でカッコよかったけど。
「そんなもん、観たくもねぇ」
……なにもあんな言いかたしなくたっていいのに。