そのあとの説明や、遠足のことはろくに覚えていないけれど、あのときの解説員さんの言葉と、幸せそうな笑顔が私の心に深く刻みこまれた。
 無数に存在するなにかから、自分のいちばん好きなものを選ぶ。果たして自分にもそんなことができるのだろうか。そのとき、自分はいったいどんな顔をしているのだろうか。
 そう考えると、とてもドキドキした。
 そして、十二歳のクリスマス。突然その日はやって来た。
 お母さんの仕事場の知り合いのひとから、たまたまファミリー席券をゆずりうけたのがきっかけで、お母さんとおじいちゃん、おばあちゃん。家族みんなで観に行った市内の公民館でのミュージカル『星の王子さま』。
【ねぇ、ヒツジの絵を描いてよ!】
 夜明けの砂漠にたたずんでいる、金髪の小さな男の子。
「星の王子さま」に、私の目はくぎづけになった。
 小さな星で、一本の美しいバラを大切にしていた王子さま。
 決まりきった大人の言うことを、変だなと怒る王子さま。
【夜になったら星を見てね。そのどれかひとつにぼくが住んでるから、そのどれかひとつでぼくが笑ってるから】
 多くの星々を旅して、そして、最後には愛するバラのもとに帰っていく王子さま――。
「そのとき、分かったの。あぁー、これだ、このひとだって。解説員さんが自分のいちばん好きな星を見つけたように、自分もやっと好きなものを見つけられた。誰かに否定されたり、バカにされたりしても、この気持ちは絶対に揺るがない。私、この舞台が、星の王子さまのことがほんとうに好きなんだなって」
 あぁ、この話。誰かに話すのなんてはじめてだな。
「ホントは王子さま役の子のいる劇団に入りたかったけど、うちにはそんなお金ないから、中学生になってから、演劇部に入ったの。演劇を続けてたら、そのうちどこかであの王子さまに出会えるんじゃないかって。その夢はまだかなえられてないけど、あきらめなかったら、きっと――」
「……ホンット、頭ん中、めでてーなお前」
 瀧口くんがボソッとつぶやいた。
 なにその言いかた! やっぱりお花畑女だって言いたいの?
「たしかに瀧口くんにはくだらない話かもしれないけど、あのころからずーっと私の気持ちは変わってないもん。もし、本人に会ったら『ありがとう』って伝えるのが私の夢なの!」
 瀧口くんは、
「勝手にしろ」
 と、くるっ、と私に背を向けた。
 瀧口くんってやなヤツ。さっき一瞬でもほめるんじゃなかったな。
 だけど……くだらないって思ってるんだったら、なんで私の話最後まで聞いてくれたんだろ?