「ソロパート担当は赤城さんがいいとおもいまーす」
 クラスのお調子者、山田君のその言葉に、クラスの大半が同調する。
 こうして私――赤城里美は合唱コンクールの女子のソロパートの担当に選ばれてしまった。

 聞こえる

「で? なんで嫌って断らなかったわけ?」
 少し斜め上から声がかかる。
 こいつは幼馴染の高杉健斗。小学校からずっと一緒の腐れ縁という奴だ。
「だって……」
 俯いて口を尖らせる私に、健斗は付け加える。
「やりたくないんなら、その場で断りゃあいいじゃんよ」
 正論だ。
 でも認めたくない私は、心にもないことを言った。
「みんなが、私が良いって言ってくれてるんだから、期待を裏切れないじゃん」
「どうだが」
 呆れたような声をこぼす健斗の背中を私は手のひらでバシッと叩いた。
「お前どうせ祐飛狙いだろ」
「ち、ちが……!」
 否定しながらも、自分の顔がどんどん赤くなるのがわかる。
 そう……。
 高杉祐飛くん――祐ちゃんは、私の初恋の人であり、
「あんなやつのどこがいいんだよ」
「うるさいなあ!」
 ……隣にいる健斗の双子のお兄さんだった。
「あーあ。なんで双子なのにこんなに違っちゃったんだか!」
 私が健斗をちらりと見ながらそう言えば、健斗は唇を尖らせる。
「俺からすれば、あいつのどこがいいのかわかんね」
「祐ちゃんはあんたと違って優しくて、頭が良くて、運動もできて、歌も上手で!」
 そう。今回私が女子のソロパートを引き受けたのは、男子のソロパートを歌うのが祐ちゃんだから、ということが大きく関係していた。
「へー? で、その“歌が上手い祐ちゃん”につられて女子のソロパートを引き受けて? 合唱コンクールでミスしたらどうすんのさ」
「いいもーん! 裏山で毎日練習するんだから!」
 私の家は山奥のど真ん中にある。
 隣の家――高杉家とも、歩いて五分以上あるくらい、ぽつんと建っている家だった。
「よかったな、家が山奥で。街中にあったら、近所迷惑で苦情が殺到するもんな」
「うるさいなあ!」
 減らず口を叩く健斗の背中を突く。
 健斗は、意地悪そうに顔を歪めて笑った。
 健斗のその顔を見て、私は「絶対に見返してやる!」と誓ったのだった。