いよいよ卒業式当日がやってきた。

朝教室に行くとクラスメイトは先生から胸元につける花のバッチをもらってソワソワしていた。

「咲乃ーおはよっ!」

いつもはクールな華香が一番にわたしのところに駆け寄ってきた。

「おはよ。あれ?光里は?」

いつも華香の隣にいる光里がいない。私が不思議に思って聞くと、華香は

「ほら、あれ。」

と先生を先生を指差しながら言った。華香が指差した方を見ると光里は先生に泣きすがっていた。

「え。もう泣いてんの?早すぎない?」

「まあ、練習で泣くくらいだからね。」

「確かに。光里らしいわ。」

私たちはそんな会話をしながら光里のもとに行った。

「光里。おはよ。」

私がそう声をかけると光里は、

「咲乃ー!来るの遅いよー!昨日、早く来ようって約束したじゃん!」

と私に抱きついてきた。

「そんな約束してたっけ?」

不思議に思ってそう声を漏らすと、

「さっきからあることないこと何でもしゃべりまくってるんだよ。光里。だからしてないんじゃない?」

と華香がこそっと呟くように言った。

「何それ、ついに頭おかしくなったか。」

「もう、受験終わったんだから、今なら頭おかしくなっても大丈夫なんじゃない?」

と、私たちは光里に聞こえないようにしゃべって笑いあった。こんな風に三人で話していられる時間もあとちょっとなんだなと思うと、寂しい気持ちになってきた。でも、それにしても光里は泣きすぎだけど。

と、その時。

「卒業生の皆さんは、もうすぐ体育館入場の時間ですので廊下に並んで静かに待機をお願いします。」

という、学年主任の先生の放送が入った。うちのクラスは卒業式の日だというのに朝からずっとうるさかったせいか、最後の日くらい許してやろうという先生の気遣いからなのか、最後の朝のホームルームは誰が何をいうこともなく中止となった。
私も慌てて先生から胸元に付ける花のバッチをもらい、クラスメイトと廊下に整列した。



私たちが入場する時、会場からは外まで溢れんばかりの拍手と、卒業式で入場する時の定番曲であろう「威風堂々」が鳴り響いていた。
会場に足を踏み入れると、少しでも自分の子供の晴れ姿を写そうとスマホを向ける保護者の姿、懸命に音楽を奏でている吹奏楽部の後輩たち、手を真っ赤にしながら私たちに拍手を送ってくれている在校生の姿が一気に目に入った。私に注目しているのはママくらいだとわかっていながらもその中を歩くのは何だか照れくさかった。私も去年は在校生席でこうして拍手をしていたんだなと思うと昨日までの中学校生活が急に懐かしく感じられた。

それからの国歌斉唱や校歌斉唱、呼名や学年合唱など全てのものが練習通りに進んだ。
私の返事は練習よりうまくいったけれど。