「今日はずいぶんと寒そうな格好をしてるね」
後ろから聞きなれた声がする。
「幽霊さんだ」
「こんばんは」
「こんばんは。
幽霊さんはいつも薄着だね」
普段から上下スウェットみたいな格好で、さすがに少し寒そう。
そもそも幽霊に体温があるのかは謎だけど。
「寒いの、好きなんだ」
「冬が一番好きって言ってたもんね」
「うん」
少しの間。
彼はまた空を見てる。
幽霊になら、彼になら、別に話してもいいだろうか。
「……今日ね」
「うん」
「パパとママにいっぱい嫌なこと言って、飛び出してきちゃったんだ。
だからほら、上着も忘れてる」
「そっか」
「うちのパパとママね、仲が良くないの。
前はそんなことなかったのに、パパが他の女の人と仲良くしてたせいで、仲が悪くなったんだ。
でもパパは反省してないような態度で、ママを傷つけ続けてる。
ママは、私がふたりがまた仲良くやってくれるんじゃないかって期待してること、多分気づいてると思うんだ。だから別れないでいてくれてる。
ほんとはね、私がママに別れたらって伝えられたらいいんだけど、でもそんな勇気が私にはなくて。いつも自分の事ばっかりで、今日もまたそれでママを傷つけてきちゃった」
聞かれてもないのにスルスルと言葉が出てきて、気づけばたくさん話してしまっていた。
彼は何も言わない。
興味が無いであろうことを一方的に話してしまったことを反省しつつ、謝ろうと思った時、彼が空を見つめたまま、口を開いた。