ガチャッ
玄関の扉を開けると、ママが立っていた。
「ただいま」
「おかえり。
……ごめんね」
「ううん」
ママは必ず出迎えてくれて、悲しそうな顔で“ごめんね”という。
ママが悪いわけじゃないのに。
悪いのは不倫したパパと、星麗が家を出るまでは、って別れに踏み切れない原因になっている私。
パパが他の女の人と仲良くしてたことも、3人家族じゃなくなることも受け入れられなくて、ママが今辛かったとしても別れてもいいよって言えない自分勝手な自分が嫌いだ。
「寒かったでしょう?温かい飲みものでもいれようか」
「うん」
パパは寝室にいるんだろう。
リビングはさっきと打って変わって、静まり返っていた。
ママがキッチンに立って、ココアをいれてくれる。
「クッキーもあるよ。食べる?」
「いいよ、太っちゃうもん」
「ふふ、それもそっか」
ママは普段は優しくて、よくニコニコしてる。
私はそんなママが好きだ。
「ママ」
「うん?」
「明日のお弁当の玉子焼き、甘いのがいい」
「分かった。任せて」
「やった」
別に甘い玉子焼きが特別食べたいわけじゃない。
けど、ママとなんか話していたくて、話題がそれくらいしか思い浮かばなかっただけだ。
「おやすみ、星麗」
「おやすみ、ママ」
ココアを飲み終えたところで、30分程度のママと私の夜会は終了する。
私は自室に戻ってベッドに横になった。
ママはきっとリビングのソファで眠るはず。
あんなところで疲れが取れるはずもないと分かりつつ、せめてママが夢では幸せな思いができるよう祈った。