空を見上げている彼の横顔が、とても綺麗だと思ったのを覚えている。
長い髪が夜風になびいて、整った顔が月明かりに照らされていた。
私はつい、見知らぬその人を見つめてしまっていた。
そのうち彼は、空を見つめていたその瞳をゆっくりと私に移す。
「君には僕が見えるの?」
「えっ?」
「みんなには見えないんだって。君は特別なんだね」
「……見えない?」
え、見えないって何?なんで?
「こんな夜中にどうしたの?」
……なんか怖いし、もう少し後で聞こうかな。
「ちょっと家に居づらくて、少し散歩してるの」
「僕も一緒にいい?」
「……うん」
「夜だと星がよく見えるから、散歩楽しいよね」
「星……」
そういわれて上を見上げると、そこには綺麗な星空があった。
なるほど。先の彼はこれを見ていたのか。
俯いてばかりで空なんて見てなかったから、こんなに星が綺麗に見えるなんて気づかなかった。
「冬はいちばん星が綺麗な季節なんだって」
「へぇ。そうなんだ」
「冬、好き?」
「暑いよりは寒い方が好きだけど、春が一番好き。君は?」
「僕は冬が一番好きかな」
「星が綺麗だから?」
「うん」
会話が途切れたところで、さっき気になったことを聞いてみる。
「ねぇ、さっきの、みんなには見えないってどういう意味?」
「どういう意味だと思う?」
「……もしかして幽霊とか?」
「そうかもね」
「だとしたら、幽霊って全然怖くないんだね」
「そう?」
「うん。足もあるし、普通に会話もできるし、それにすごく綺麗な顔をしてる」
「褒めてくれるの?嬉しいな」
「でもなんで幽霊に?」
「んー、ある組織に殺された的な?」
「えっ、何それ怖っ。
日本って平和な国だって思ってた……」
組織……。ヤクザとか?
だとしたら全く知らない世界だ……。
「安心して。僕ひとりが死んだくらいで日本の平和は揺るがないし、みんなの生活は何も変わらないよ」
「いやいや、君の家族や友人の生活は変わると思うよ」
「そうかな」
「あたりまえじゃん。
それに君が死んだから、私は君と出会えたと思うと、私の生活も変わるよ」
「どんなふうに?」
「んー、夜の散歩が楽しくなるかな」
「そっか。それなら良かった」