桜の香りを久しぶりに感じた。温かな日差しが学校を照らして、生徒たちの新たなスタートを見守っている。
こんな日は、とても眠い。前までは、そう思っていた。
けれど今年から、私は変わった。
「藍詩ちゃーん!」
「あ、こはる!」
前までは細川さんだったのに、今では「こはる」と下の名前で呼んでいることに、時の流れを感じる。
「藍詩ちゃん、クラス替え見に行こう!でも、教室にはやっぱり来ない?」
「うん…。でも、行ってみたい気もするんだ。だから、今年もできるだけ頑張る。受験もあるし」
「そうだね。自分たちのペースで!」
段々と、周りの素直な温かい気持ちに気付けるようになってきた。だから、今年は受験に向けて、頑張るのだ。
大学は、夜間大学に行きたいと思っている。そこでちゃんと勉強をして、人との関わりも大切に、学校という所での生活を少しでもやり直したい。
「…クラス、どう?」
こはるが目を細めて、じっとクラス替えの表を見つめる。
「同じ…か、な…?あっ、同じだ!藍詩ちゃん、クラス一緒だよ!!」
私は、本当!?と、ぶんぶんとこはるの手を揺らして何度も確認した。
確かに、同じだ。
この感覚。どうしようもなく、懐かしい。
こんな感じだった。小学校の頃も、保育園が同じだった子や、よく話している子とクラスが一緒になると、飛んで喜んだ。
まるで、小学生に戻ったみたいだ。
きらきら、視界が輝く。
「藍詩ちゃんは進級式出るんだよね?」
「うん。出るよ」
「おっけー。私、毎年そこまで人数はいないけど、新任式が楽しみなんだよね~。どんな新しい先生が来るのか」
確かに気になる、と言って、私たちは新しい教室に向かった。
ざわついた教室は、今でもほんの少し怖い。
「私、とりあえず保健室行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」
そう言って保健室に向かって歩いた。
通り過ぎる教室から、わいわいと声が聞こえてくる。みんなハイテンションで少し居づらい気もするけれど、私もその気持ちはわからなくもなかった。
「おはようございます、原先生」
「おはよう、小野さん。本当は職員室に居てもよかったんだけど、どうせ来るだろうなって思って待ってたよ」
「なんか言い方ちょっとひどくないですか…?」
そんなことはない、と、原先生は笑った。原先生がまだこの学校の保健室の先生でよかった。退任式はどきどきした。
「クラス替えはどう?細川さんと一緒になれた?」
「うん。なれた。めっちゃ嬉しいけど、今は学校の雰囲気から逃げてきて素直に喜べないです…」
「ここが小野さんの逃げ場になれていてよかったわ」
なんか今日原先生らしくないですね、と言ったら、寝不足なんだよ、と言った。原先生にも寝不足なんてことがあるのか。
「まぁ、私は今年も小野さんが、小野さんのやり方で学校に通えることを応援しています」
「ありがとうございます。私も、原先生の寝不足が何かに影響してしまわないよう祈っています」
ほんとそうだね、と言いながら原先生はあくびをした。