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東野高校バレー部のエース――相原先輩に、わたしは密かに想いを寄せていた。この片思い、かれこれ二年。
だけど、相原先輩には彼女がいた。超絶かわいい彼女さん。
だからこれはかなわない恋――と、思っていたけれど。
朝、わたしの前を歩いていたバレー部員の人たちが、「相原が彼女と別れた」と話しているのを聞いた。
こんなチャンス、きっともうこない。
わたしは部活終わりの先輩を呼び出した。体育館裏。
自分でも思った。ベタだなーって。
とはいえ、体育館から出てきた先輩に声をかけたのだ。
体育館から近い場所で、人気のない場所――なんて言ったら、体育館裏しかないのだからしかたがない。
「好きです。えっと……付き合ってくれませんか」
声が震えているのが自分でもわかった。
今まで生きてきて、こんなに緊張したことはない。
まさか、奥手なわたしがこの言葉を口にする日が訪れるなんて、思いもしなかったけど。
「えっ」
相原先輩はこちらを見た。驚いたように口をぽかんと開けていた。
流れではあったけれど、こんな所に連れてこられて。しかも後輩女子とふたりきり。
そんな状況になったら、誰でも察するだろうなと思ったけれど、先輩は本気で驚いているようだった。
しばらくわたしを見ていた目が、逸らされた。
その瞬間、それまであった緊張が、胸のずきりという痛みに変わった。
視界の色が変わった。暗くなったような、現実に戻されたような、そんな気がした。
だめなんだと、悟ったのだ。
これから先輩がわたしになにを言うのか、嫌でも分かってしまう。
「ごめん、俺、今は彼女作る気とかなくて」
相原先輩はバツの悪そうな顔をして言った。
予想通りの返答だった。
「そう、ですよね。ごめんなさい」
よくよく考えれば、こうなるのって、当たり前。
相原先輩は昨日彼女さんと別れたばかりなのに、わたしの告白に良い返事をするわけがない。
あぁ、わたしってなんてあほ。なんで考えなかったかな。
ズキりと胸が痛んでいる。この場からすぐにでも逃げ出したい。
顔に出さないようにしたって、そんなのできない。
わたしはどうすればいいんだ。
下を向いてうつむくわたしに、遠慮がちに相原先輩が切り出した。
「……俺、そろそろ――」
そのとき、「相原ー、おせーよって、あれ、どこだ?」という声が近づいてきた。
「きゅ、急に呼び出してこんなこと言って、その、ごめんなさい」
空っぽ真っ白の脳みそ。なんとか謝って、そして涙を堪えてもう一度「待たせてるのにごめんなさい。ありがとうございました」と告げた。
あっけなかった。
これで終わりか。ばいばいわたしの二年間。
相原先輩は、そのままバレー部の集団の方へもどった。
「ラーメン行こうぜ」と声が聞こえた。相原先輩とよく一緒にいる、たしか名前に黒という字が入るひとの声。
他のバレー部の人が、「お前今告られてただろ」と相原先輩の背中をたたく。
「あー、断った。俺、あの人知らないし」先輩たちは歩きだした。
……――俺、あの人知らないし?
「おまっ!最低だなぁ。あの子、毎回試合応援来てんじゃん」
「え、そうだっけ?」
声はだんだんと離れていった。
彼はたしかに言ったのだ。
わたしなんて、知らないと。
知らない? 知らないってなに?
もう、わたしの心はさらにぐちゃぐちゃ。
見ているだけだったけれど。
目立つような応援はしなかったけれど。
それでも――二年間、ずっと追いかけてきたんだよ。