僕は森盛(もりもり) まりなさんが、夜這いに来ると思い。
 温泉の中で、入念に身体を洗った……特に股間を。
 だが、僕のいるテントに彼女が現れることはなかった。

 おかげで、一睡もできず。
 僕は寝不足だ。
 今日は、みんなで九重山に登るから、スタミナが必要だと言うのに……。
 
 イライラしながら、共同の洗面所で歯を磨いていると、後ろから声をかけられた。

「あ、童貞くん。おはよう」

 昨晩、森盛さんが来てくれなかったので、僕はイライラしていた。

「チッ……ああ、なんだ。植田(うえだ)さんか」

 別に植田さんは悪くないのに、当たってしまう。

「ご、ごめん。朝が弱いの?」
「いや……そういう訳じゃないけど」
「今日、一緒に山へ登るでしょ。頑張ろうね♪」
 と優しく微笑んでくれる植田さん。
 だけど、僕は昨晩のことを引きずっていたので、塩対応だ。
「うん。分かった……」

 小さな胸の前で、拳を作ってみせる植田さんを放置し、その場を去る。

(はぁ、何が山登りだよ……。小学生じゃないんだから)

  ※

 パワハラ先生から、事前に九重山の厳しさだけは注意されていた。
 少しでも間違えれば、崖から落ちて死んじゃう……。
 だから、列を崩さず、みんな一緒に歩けと。

 確かに登り始めて、息は荒くなるし、膝も痛い。
 何が楽しいのか、さっぱり分からない。
 自衛隊の厳しい訓練みたいだ。

 1つの山を越えて、大きな石が転がる下り坂をゆっくり歩く。
 石と石の間を歩くため、地面が不安定だ。
 だから、みんな少しずつしか歩けない。
 僕は前の男子が降りるのを待っていた。
 すると、次の瞬間。誰かが僕の背中に抱きついてきた。

「キャッ!」

 ぷにゅっと何か柔らかい感触が、背中に伝わる。

(こ、これは!? まさか……)

 ゆっくりと振り返ると、そこには三つ編み姿の植田さんが立っていた。
 瞼を閉じたまま、僕の背中に顔を埋めている。
 いや、抱きついていると言うべきか。
 これは……逆“あすなろ抱き”だ!

「あ、童貞くん。ごめん、足がすべって……」

 僕の背中から顔を離し、頬を赤くする。
 そして、上目遣いで僕を見つめていた。
 この間数秒ぐらいだと思うが、植田さんは、僅かに盛り上がった自身の胸を僕に押しつけている。

(や、やはり……小さ過ぎて分からなかったが。これは間違いなく、植田さんの微乳だ!)

「いいよ……植田さんこそ、ケガない?」
「うん。童貞くんが下にいたから、助かったよ♪」
「ああ、それなら良かったね」

 それからの記憶はとても曖昧だ。
 頭の中は、植田さんの胸でいっぱいだったし、股間が暴走するから、常に前かがみ。

(めっちゃ気持ち良かったやん! やっぱ植田さんにしよう!)

 帰宅後、しばらく植田さんの言動について、考えてみた。
 彼女は何故、僕に抱きついてきたのか……。
 どう考えても、僕のことが大好きだから、背後からハグしたに違いない。
 ん? そうか!
 植田さんって控えめな性格だと思ったのに……。

 初めてを後ろから、攻めて欲しいということか!
 まったく、悪い子さんだな♪