ピアノを弾くことは好きだ。ただ、伴奏をすることは苦手だ。ピアノを弾くことと、みんなの伴奏者になることは全く違う。それぞれの場面の主役は違う。そこで私はかなり苦戦した。家で練習をする時点ではみんなの声は重ねられないので「伴奏」としての練習は難しい。伴奏が難しい曲はこのときに数えきれないくらい練習をするけれど、思うように弾けなかったり、こんな曲私に弾けるのだろうか、と悩むこともある。でも、私が出来なかったら誰も出来る人がいない、というプレッシャーからみんなと合わせるまでの間、必死に練習を重ねる。
 そして、合わせるときが来ると次の試練、「伴奏」としての練習が始まる。正直、自分ひとりで練習していた時よりも難しい。みんなの声と自分の伴奏がバラバラに聞こえてはいけない。息を合わせ、音楽を奏でなければならない。ただピアノを弾くことの方が何倍も簡単だと私は思う。
 そんな葛藤をしているなかで、合唱のほうも不安になる時がある。練習の時に歌わない、ふざける、ちょっかいをかける……など、真剣に取り組まない人がいるのだ。そんな練習なんて、正直しない方がマシだと思った。こっちはあなたがたより先に練習を始めて、こんなに色々と考えているのに、合唱の練習期間も短いなかでなんでそんなことが出来るのかわからなかった。正直、このことを話して怒鳴りたいぐらいだったが、普段は口数少ない私が言っても、きっと無視するだけだと思って言うことをやめた。そうして迎えたリハーサル。結果は大失敗。そのことをきっかけに、ふざけていた人たちが朝練を始めるようになった。結局こういう経験が無いと変われないんだな、と思いつつも変わらないよりはいいかと自分に言い聞かせた。それからまた練習する日々。あまり伴奏は向いていない私だけれど、そもそもピアノが弾けないと出来ないことなので仕方ない。伴奏をするうえで大事なのが「空間」だと思っている。その空間にあった響きを出すことで綺麗なハーモニーが広がる。普段練習している教室や音楽室とは違う空間のなかで本番を迎えることは難しかったけれど、自分なりの力を出し切り、クラスのみんなと作り上げた合唱になった瞬間は本当に嬉しかった。
 合唱は一人欠けてもそんなに影響は無いかもしれないけれど、伴奏は私一人しかいない。そんなプレッシャーのなかで伴奏をしているということを知ってほしかった。それが、ずっと言えなかったこと。