「かえ〜数学の宿題やってきた?」
まただ。私は日波叶咲。小説とかに出てきそうな優等生というポジションにいる。今のは私と仲の良い三枝くるみである。
「やってきたよ」
「本当?写させてくれない?」
「いーよ」

「ありがとう〜!マジ助かるんだけど!

これで何回目だろうか?私は数学の小テストの勉強をしたかったがノートがないのなら仕方がない。心の中でため息をつく。しかもくるみは私の席で写し始めた。もう諦めてカバンから単語帳を取り出す。数学は捨てて単語テストに全振りしよう。
「なにそれー!?」

「どーしたの?くるみ?」

「何その単語帳!超マジメじゃん!」
なんでそんなこと言われなければならないのだろうか?
「全然やってないから徹夜して作ったんだよね」
苦笑する演技をする。最悪だ。
「三枝邪魔」
突如割り込んでくる男子。
「わっごめんなさい」
どんな女子でもこの男だけはビビる。陽野崎李央。ピアスを開けていて制服を着崩している。しかも誰もが二度見するほどの綺麗な顔立ちを持っている。
「なに見てんだよ、日波」

「いやこっちもごめんなさい」
悪くないけどとりあえず謝る。
「あっそ。」
許してもらえたならよかった。
ちょうどチャイムがなり先生が入ってくる。
「ちゃんと座っているか?」
なんじゃこの確認は。なんの意味もない。とりあえず陽野崎くんから何も言われない点ではよかった。





長い長い学校が終わる。家には死んでも帰りたくないが仕方なく帰る。気配をなるべく消して家に入ると母はまだ帰ってきていないようだ。安心する。スマホでもみて時間を潰そうと思ってリビングに入ると絶望した。
「叶咲へ
この付箋のついてるページ絶対にやりなさい。あとで必ずチェックするので覚悟しなさい。」
舌打ちをする。ここまで親に管理された生活を送っているなんて自分の無力さもウザくなる。そりゃそうか。兄も父も祖父母もみーんなお医者さんなんだもの。母が私にもその道を歩ませようとするなんて案外普通のことなのかもしれない。こうやって諦めてしまうから反抗できないんだな。




何とか課題を終わらせてTwitterを開く。娯楽の時間である。Twitterは見る専なのでトレンドをチェックすると1番下に「#家出少女」という文字が目に入ってきた。なんとなくクリックすると暗い言葉がたくさん出てきた。でも境遇がみんな私と似ている。私は家でなんかしないしなって思いながらスクロールしていくと無性に外に出たくなった。これは家出じゃない。出かけるだけだ。そう言い聞かせながら洋服に着替える。玄関の前に立つと罪悪感があったがすぐに消えて私の中に残ったのは高揚感だけであった。