いつからか、ありのままの自分で人と接すことができなくなっていた。

その原因も理由もわかっている。
だけどなおし方がわからない。
いや、正直に言うと怖くてできなかった。

本当の自分を愛してもらえるとは思えなくて隠したのだから。





「しいちゃん」

「にゃー」


家の最寄り駅すぐ近くのガレージ。
そこには自転車やソファーが置いてあって、ちょっとした物置になっている。
そして、三毛猫であるしいちゃんが住んでいる猫小屋でもあった。


「……しいちゃん、今日も話聞いてくれる?」


いつものように佇んでいる隣に座り、ふわふわの毛並みを撫でる。
返事はないけれど、こうしてそばにいてくれるからいいのだろうと勝手に解釈して口を開いた。


「今日ね、小テストがあったんだ。100点とれたんだけど、それを見た瑠々(るる)ちゃんが『優等生はいいな~』って。優等生だからとかじゃなくて、昨日勉強したから満点とれたのに」


話すとイライラした気持ちを思い出すのと同時にスッキリする。
しいちゃんがこっちを見向きもせず撫でられ続けているのをいいことに、遠慮なく吐き出していく。


「あとね、今日の授業もみんなすっごくうるさくて。そのくせテスト前になったら『ノート見せて』って言ってくるんだよ。虫が良すぎるよね」


私はいつのまにか、誰に対してもいい顔をするようになった。
優しくて、ほどほどにノリが良くて、いつも笑顔で明るくて。

言い出したらきりがない、そんな理想の自分を演じて接する。
特に学校では顕著だった。
だけど気持ちも全部ごまかせる訳じゃない。

表の顔をしているうちに、どんどんどんどん不満が溜まっていく。
そんな誰にも話せない愚痴をしいちゃんに聞いてもらうのが日課だった。