いやいや今そんなこと考えてる場合じゃない。
今目の前の人に僕のことを否定されているんだぞ。
「おーい、聞いてんのか?」
「え、な、なに」
「せーっかく俺がアイスおごってやるって言ってんのに」
「なんで上から目線なんだよ」
「アイスおごるから今のことは許せ」
「は?」
何言ってるんだろうこの人。上手く理解は出来ないけれど何故かフッと笑みがこぼれた。
さっきまでドロドロと煮えくり返っていた感情がスッと消えていく。
「ははっ、悪かったって。ちょっと買って来るから待ってろよ」
彼女はヒールをコツコツと鳴らしながら、少し先にあるコンビニへ歩いて行った。
変な人だな。
散々僕のことを好き勝手言って、アイスをおごるから今言ったことを許せだなんて。
自由人って言うのだろうか。いや自由っていうか、わがまま? 自分勝手?
なんて言えば良いか分からないけど、何も悩みがなさそうな人。まるで僕とは正反対。
「ほら、買ってきたぞ。これで許せ」
彼女はコンビニの袋をカサカサと鳴らしながら、僕にソーダ味のアイスを差し出した。
「ありがと……って、一番安いアイスじゃん」
「は? うるせーな。夏といえばこれだろ? それに俺は今金欠なんだよ」