「なあ、お前ちゃんと息してねえだろ」
「は?」
今なんて言ったんだ。
予想もしていなかった言葉に頭が混乱する。
「息、してなかったら、僕死んで、ない?」
喉の奥に何かが詰まって言葉が上手く出てこない。
この人は一体何が言いたいんだ。
「そういう意味じゃねえよ」
彼女はフッと右の口角をあげながら橋の欄干から軽々しく飛び降り、僕の頬をつかむ。
「何かお前って、息苦しそうだ」
険しい顔を浮かべながら僕に対して平気に失礼な言葉を投げかける。
なんて奴だ。
息苦しそうだって?
なんで出会って間もない人にそんなことを言われなきゃいけないんだよ。
腹の底から黒いものがドロドロと煮えくり返る。
「うるさいな」
彼女につかまれていた顎を無理やり引き離し、分かりやすくため息をついた。
「お、良いなあ、その顔。まさか図星だったとはな」
「は?」
「ははっ……」
彼女は笑いをこらえていたのかお腹を抱えて大笑いした。
本当に何なんだ。
僕の顔を見て笑いやがって、失礼なくらい嫌なやつだ。
「ねえ、さっきから失礼すぎない?」
「あははっ……、悪いな」
あ、光った。
彼女が瞬きをするたびにまつ毛がキラリと光る。
色素が薄いのかまつ毛が白っぽい。
でも彼女の髪は綺麗な茶色だし、何かで色をつけたり染めたりしているのだろうか。