「ごめん」
嗚呼、そんなに泣かないでください。
「ごめんね」
大丈夫ですよ、貴方のためです。
「っ…、」
もう、泣きすぎです。
「ごめん、…世界」

僕は十分幸せでしたから。



 ◇

「わー?」
「はーさん、この子拾った」
「…新顔だ」
魅夜が珍しく誰かといるから悪巧みかと疑えば、きょとんとした子供だった。
「えっと…どこで?」
「廊下みゃあ。みゃーが見たことない子だったからはーさんのとこに連れてきたみゃあ」
「僕も知らないね」
「わ?」
愛くるしくこちらを見つめてくるその子は…なんというか、不完全、というのが正しい表し方な気がする。
服はお世辞にもしっかり着ていると言いづらく、髪も伸び切って顔を覆っている。かろうじて視線が見える程度だ。
「それに、なにこれ」
「知らんみゃあ」
一際目を引くのは頭に刺さった(?)ゼンマイ。
「これ痛くないのかみゃあ?」
「…痛いにしても、花咲きとか石はそんなに影響受けないからなぁ」
「悪いとこみゃあ」
お名前は?と聞いてもゼンマイのことを聞いても「わー」としか返ってこず、陽翔は軽く目眩を覚えた。犬のおまわりさんの気持ちがよーーくわかる。
「はーさんが良ければ、この子みゃーが面倒みてもいいかみゃあ?」
「…なんか企んでる?」
「人聞きが悪いみゃあ!ほっとけないだけみゃあ!!」
「いや冗談、冗談だって、近い近い」
ムッとした顔で詰め寄る魅夜を宥めていると、その子が割り込んできた。
「わぁー!!」
「…止めてる?」
「みゃあ…?」
「喧嘩じゃないよ、じゃれあい」
陽翔がそう言って、その子のゼンマイを避けて頭を撫でてみると嬉しげに目を細めている。
「お、かわいい。優しいんだねぇ、君」
「…名前ないと不便みゃあ……」
「魅夜ちゃんがつけていいよ。どうせ今聞けないから」
こんぱるという名付け例があるため、陽翔はそう提案する。


その日はこれで解散したが、後日魅夜から『虚な世界を優しく見れる子』だから『虚世』と名付けたと手紙が部屋に届き、追記でゼンマイを回すと意思疎通が可能だった旨、また、回しても名前は不明だったことが判明した。

「いや、回したんかい」