浮上した。


「…っは」
ぱちりと両目が開く。
頭の頂上からつま先まで電流が駆け巡るみたいに感覚が走って、指先がピクリと動く。
五感が意識の後に着いてきて、ようやく魅夜は『生きている』と理解した。
「…あー」
何の気なしに起き上がって、喉に手を当てて声を出す。発声は少し違和感を感じた。まぁ大丈夫だろう。
「さて…ここはどこかな」
きょろりとあたりを見回す。そこそこな広さの個室だ。窓からは花が咲き乱れた草原が見え、朗らかな陽気が差し込んでいる。
ここにどうしているのか、自分は誰なのか。ほぼ覚えていないけれど、なんだか事件性はなさそうだ。
魅夜は寝かされていたベッドからそっと降りて、軽く伸びをする。ゆったりとした白地のワンピースに黒いパーカーを着ていた。自分の心境とは裏腹に、パーカーには猫耳なんてつけてもらっている。
魅夜はふは、と渇いた笑みを漏らした。

しばらく部屋を物色したけれど備え付けの設備以外は何も無かった。
わたしみたいだねと自嘲的に笑ってから、部屋に唯一ある扉に目を向けた。
「ま、出るななんて言われてないし」
少し考えた後に、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
どうせ何もない部屋なのだ。外に出た方がなにか収穫があるかもしれない。

てててと扉まで駆けていき、ノブに手をかける。
金属の擦れる音がして扉が開く。

「…え?」
「あぁ、来たんだねぇ」

すぐそこに人がいたから驚いた。
「僕は陽翔。君は新しくここに来た人だよね。名前、分かる?」
いやいや自ら来てないしとかそんな言葉が喉で詰まってきゅうと鳴る。
そんな魅夜を見てその人はこてんと首を傾げた。綺麗な金髪に澄んだ目、人懐っこそうな顔。陽翔と名乗ったその人は、魅夜より年下に見える。
魅夜の回答を待っているのか、キラッキラの笑顔を向けてくるから魅夜は一層顔を曇らせた。
「…名前」
「そ!たまに忘れちゃってる子いるからさ」
「…ここに来た経緯、とかは」
「大丈夫、みんな分からないから」
なるほど、『そういうもの』らしい。
自分の問いを無視されたというのに、少年は全く気にしていないようだった。
「…みや」
「お、みやちゃん?」
魅夜は記憶に軽く載せられていた名前を口に出す。
わたしは、そう言い直そうとしてはたと口を止める。

自己防衛のためには、自分を曝け出さないこと。

本能的にそれが頭によぎって、魅夜は戸惑いパーカーをぎゅっと握り込んだ。
本音とか、自分とか、一旦しまわないと。

「…みゃーは、魅夜、みゃあ」
「そっか!魅夜ちゃん!これからよろしくね!」
ぱあっと顔を綻ばせて、陽翔は魅夜の手を掴んだ。
「わ、」
「いろいろ案内とかしてあげるよ!生活用品とかいるでしょ?」
「みゃあ…」


手を引かれながら、なんのためにこんなとこに呼ばれたんだかなぁ、と魅夜は苦笑していた。