私は、誰もいない屋上に立っていた。後ろにカバンを持ったまま、冷たい風に吹かれていた。空は曇っていて、私を応援してくれない。

 不意に、屋上のドアが開かれる。翔くんだ。

「あ、翔くん…!」
「…なに?」
「あ、あのっ。えっと…。その…。」

 口が動かない。決して寒いからではない。でも…声が出ない。
 翔くんはまっすぐ私を見ているのに、私はまっすぐ翔くんを見れない。
 ダメだ。やっぱり告白なんて無理だったんだ。

「これ、委員会の点検表!」

 清美委員は、週替わりで放課後に点検を行なっている。ほうきやちりとりの数を数えたり黒板消しクリーナーの清掃がされているかなどをチェックするのだ。今週は、翔くんの番だったため、カバンから急いで取り出して渡す。

「ああ…ありがと。でも、屋上で渡す物か?」
「あ、あはは…。なんとなくそんな気分で〜…。」
「まあいいけど。…これだけ?」
「うん!またね〜。
「また明日。」

 私は再び、誰もいない屋上に立たされた。
 言えなかった。渡せなかった。それが悔しくて、膝をつく。
 私が臆病だったから。勇気がなかったから。釣り合わないと分かっていながら、渡そうとするからこうなるんだ。自業自得だ。無意識に自分で自分に傷をつける。
 もう、涙が止まらなかった。自分の意気地なさにとても腹が立って、手に力が入る。浮かれていた私が馬鹿みたいに思えてきて、余計に腹が立つ。
 絵里ちゃん。本当に砕けちゃったよ。いや、当たってすらなかったよ。ごめんね。
 カバンに入っていたスノーボールを取り出す。シンプルにラッピングされた、私の気持ちだ。見るのも嫌になってきて、蓋を開けてひとつ食べる。とっても、美味しかった。またもや涙が出てくる。またひとつ食べる。私の努力が、口の中でほどける。
 
 雨が降ってきた。天気さえも、私を慰めてくれない。2つ食べてしまったスノーボールをカバンにしまい、立ち上がる。
 雨水が私の髪を濡らしていく。あ、そうだった。今日は頑張って、ヘアアレンジしたんだった。少し色がつくリップを塗って、いつも以上に可愛くなろうとしていた。
 段々と勢いを増す雨がうざったくて、空を殴った。でも雨は止まらない。

 このまま終わっちゃうのかな。嫌だな。…嫌だ。このまま終わりたくない。もうお菓子は食べちゃったけど、気持ちを伝えることはできるはずだ。
 翔くんの家に行けば、伝えられる。
 翔くんの家は小学生の頃に何度も来たことがあるし、今でも鮮明に覚えてる。

 私は、もうなにも考えられない頭で走り出した。カバンの中には、少なくなったスノーボールがある。