そしてマリは、このたった一週間でさらに増した熱気の中、へこへこと頭を下げる作業服のお兄さんを据わった目で眺めていた。
 ガガガガ、と掘削機がリズミカルな音を奏でている。

 朝はまだ通れたというのに、結局また通行止めになっていた。
 まあ、今朝の段階で機材を運び込んでいたので覚悟はしていたが。
 もしもう工事が終わっていて、この坂道をいつも通り下れたのなら、夏目のところになんか行かないでまっすぐ帰ってやろうと思っていたのに。

 律儀に断りに行く必要もない、と頭では思いつつ。

 ちらりと視線を落とせば、膝の上にはビニール袋が乗っている。
 病院の売店で昼ご飯を買ったのだ。

 リンゴデニッシュと、チョココロネと、黒糖パン。
 それから、入院中の子どもに大人気のラムネ。
 パッケージは病院という環境上瓶ではなくブラスチックだが、あの独特の曲線とビー玉は健在である。
 うっとうしいほど燦々とした太陽光がボトルを透過して、瑞々しく濁った青色が膝の上にプリズムを刻む。
 それが、各一個ずつ。計八個。

 売店で、なんとなく。

 夏目が栄養失調で死んでいそうだなぁ、と思ってしまって。

 気づいたときには自分のぶんと、夏目のぶん。
 それぞれ一個ずつ買っていた。

 高校生のマリに生存を心配されるレベルのだめ人間なんてどうかと思うが、知り合ってしまった以上気になってしまう性分なのだ……と言い訳がましく呟いて細道を進む。

「断るのに手土産もないのは気が引けるから。覗き見のお詫びもしたいし。大丈夫、それだけ」

 誰にともなくぶつぶつと要領を得ない説明を繰り返す。

 そういえば、あの夏の大冒険の日に会った男の子は誰だったのか。
 当時、おそらくマリより年上だったであろう王子様のような男の子。

 一瞬夏目の顔が浮かんでしまい、全力で頭を振って否定した。

 あの仏頂面でいけすかなくて、愛嬌を夏の暑さに溶かしきってしまったようなデリカシーのない夏目はどう考えてもあのときの王子様なわけがない。
 どちらかといえば槙島のほうがしっくりくる。
 昔はあのスクールに通っていたと言っていたし。

「あ……」

 照りつける日差しの中からあの調べが聞こえてきて思考が中断された。

 まただ、と何もない上空を思わず見あげる。
 近づくにつれ、細切れだった音がしっかりとした旋律へと変わりなんだか心がぞわぞわする。
 落ち着かなくて、つい、右足が疼いた。

(これをわたしが踊る? 絶対無理でしょ!)

 きっと洗脳に違いない。
 もしまたマリが通ったら気にせずにはいられないようにと。
 それにまんまとはまったとあっては無性に癪に障る。

 やっぱり帰ろうと思った矢先、残念にも夏目ダンススクールの看板が見えた。
 ……ここまで来て引き返すのも、負けたようで癪に障る。

(嫌いだなぁ)

 自分の負けず嫌いで天邪鬼な性格を呪いながら、マリはのろのろと門を通り抜けた。