いつの間にか朝日が顔を覗かせていて、台所からはまな板を叩くリズミカルな音が響いている。
 お婆ちゃんが朝食の支度をしていると言うことはもう七時か。

 むくりと起きあがると真っ先に目に飛び込んできたのは足型の抜け殻とカラフルな靴紐。
 次いで学級新聞と保健だより。
 なんだか懐かしい夢を見ていた気がしたがよく思いだせない。

 頬に張り付いていたシャープペンシルとノートを引っぺがしてベッドに投げだし、隣接する風呂場までけんけん跳びで移動して鏡の前に立ったところで絶句した。

 昨日訳した歌詞がくっきりと頬に写っている。
 ちょうど夏目が歌った、最後の二節。
 ざっと流し読みしてむすっとなった。

「あーあ小っ恥ずかしい歌詞ぃ」

 とぶつくさ言いながら洗面台で顔を洗う。
 部屋に戻って代わり映えのない制服に着替え、朝食を食べに部屋をでようとしたところで、

「……仕方ないなあっ」

 誰に対してのものなのか、わざとらしい言い訳を一つして、靴紐を手に部屋をでた。
 さっさと朝食を済ませて、スタジオに行かないと。

 ドアを投げやりに叩きつけると風が起こって、ベッドに投げだされたままのノートが開いた。
 寝ぼけたミミズのような字がひっそりと顔をだす。

 それともひょっとしたら、
 最後の小さな星が空から消え去ったとき、
 まだ私たちは一緒にいるのかしら?
 お互いに腕を回したままで、
 あなたは私の新しい恋になってくれるのかしら?
 そんなことが起こりえるかも知れないと承知の上で、
 踊りませんか、踊りませんか、踊りませんか?