納涼祭というのは地元の名士であるなんとかというおじさんが個人的に開催している非公式のダンス競技会で、海岸に設置された展望デッキを貸し切って開催されるらしい。
当日はお土産屋や食堂もイベント仕様に変わるらしく、夕涼みをしつつ義足の性能も検査してしまおうという一石二鳥なプログラムなのだと、言葉足らずな夏目にかわって槙島が説明してくれた。
「無理無理無理! そんな人前でやるなんて聞いてない!」
腹ばいでバランスボールに寝そべりながらマリが絶叫すると、夏目は耳の穴に指を突っ込んで「うるせえ」とありがたいお言葉。
「まあまあマリちゃん。そんなに気負いしないで」
マリの背中に手を添えて転落を予防しつつ、槙島がきゃらきゃらと笑って言うことには。
「競技会と言ってもほとんど素人の集まりだよ。屋台や食堂を貸し切ったビュッフェが目当てで、たらふく食べたあとに腹ごなしで踊るかあー程度の人が集まってるんだから」
はい、来ました。
踊れる人の理論。
〝ほとんど素人〟と〝本当に素人〟の間には超えられない壁があることを知らないのか。
「だからって無理でしょ! 百歩譲って〝素人〟なだけならまだしもこっちは義足なんだよ?」
「俺が作るんだぞ無理なわけあるか」
一方の夏目はずれたことを飄々と。
何その自信。というかそういう問題ではない。
「主催しているおじさんの趣味が社交ダンスで、自分が踊りたいから開催したっていうほんとに遊びの競技会だからさ。大丈夫だいじょーぶ」
こいつら……。
自分たちは(たぶん)小さい頃からやっているのでなんてことはないのだろうけれど、一般的な人間は社交ダンスなんて見たこともないのであって、それをいきなり人前でやって見せろだなんて無茶ぶりもいいところだと理解して欲しい。
「ちなみに、いつ?」
「八月十六」
今日は七月十日土曜日。
義足ができるのに三日かかるから十三日に完成したとして、そこから練習できるのはひー、ふー、みー……。
「あと一ヶ月と二日しかないじゃん!」
「おー」
と無責任な返事。
ここで急に槙島がはっとした顔になり、
「というかマリちゃん学校は? 高校生ってまだ夏休みじゃないよね?」
慌てたように指折り数え、
「学校があるとすると練習できるのは実質……」
と計算し始める槙島。
「お前まだ夏休みじゃなかったのか」
と寝ぼけたことを言う夏目。
「あー……えっとですね」
入学当初はちゃんと毎日通っていたんだ、と槙島へ向けて心の中で言い訳をする。
しかし中学まで続けた保健室登校が完全に板についてしまい、五月を過ぎたあたりから休みがちになっていた。
「まあ、いろいろと」
うまい言い方が思いつかずものすごくざっくりとごまかした。
しかし夏目は特に気にした風もなく、むしろ「学校行ってないなら都合がいいな」とこちらが面食らうほどすんなり受け入れ、そのうえ。
「なら義足ができるまでの三日間は体幹強化で」
と宿題までだしてくれたのだった。
当日はお土産屋や食堂もイベント仕様に変わるらしく、夕涼みをしつつ義足の性能も検査してしまおうという一石二鳥なプログラムなのだと、言葉足らずな夏目にかわって槙島が説明してくれた。
「無理無理無理! そんな人前でやるなんて聞いてない!」
腹ばいでバランスボールに寝そべりながらマリが絶叫すると、夏目は耳の穴に指を突っ込んで「うるせえ」とありがたいお言葉。
「まあまあマリちゃん。そんなに気負いしないで」
マリの背中に手を添えて転落を予防しつつ、槙島がきゃらきゃらと笑って言うことには。
「競技会と言ってもほとんど素人の集まりだよ。屋台や食堂を貸し切ったビュッフェが目当てで、たらふく食べたあとに腹ごなしで踊るかあー程度の人が集まってるんだから」
はい、来ました。
踊れる人の理論。
〝ほとんど素人〟と〝本当に素人〟の間には超えられない壁があることを知らないのか。
「だからって無理でしょ! 百歩譲って〝素人〟なだけならまだしもこっちは義足なんだよ?」
「俺が作るんだぞ無理なわけあるか」
一方の夏目はずれたことを飄々と。
何その自信。というかそういう問題ではない。
「主催しているおじさんの趣味が社交ダンスで、自分が踊りたいから開催したっていうほんとに遊びの競技会だからさ。大丈夫だいじょーぶ」
こいつら……。
自分たちは(たぶん)小さい頃からやっているのでなんてことはないのだろうけれど、一般的な人間は社交ダンスなんて見たこともないのであって、それをいきなり人前でやって見せろだなんて無茶ぶりもいいところだと理解して欲しい。
「ちなみに、いつ?」
「八月十六」
今日は七月十日土曜日。
義足ができるのに三日かかるから十三日に完成したとして、そこから練習できるのはひー、ふー、みー……。
「あと一ヶ月と二日しかないじゃん!」
「おー」
と無責任な返事。
ここで急に槙島がはっとした顔になり、
「というかマリちゃん学校は? 高校生ってまだ夏休みじゃないよね?」
慌てたように指折り数え、
「学校があるとすると練習できるのは実質……」
と計算し始める槙島。
「お前まだ夏休みじゃなかったのか」
と寝ぼけたことを言う夏目。
「あー……えっとですね」
入学当初はちゃんと毎日通っていたんだ、と槙島へ向けて心の中で言い訳をする。
しかし中学まで続けた保健室登校が完全に板についてしまい、五月を過ぎたあたりから休みがちになっていた。
「まあ、いろいろと」
うまい言い方が思いつかずものすごくざっくりとごまかした。
しかし夏目は特に気にした風もなく、むしろ「学校行ってないなら都合がいいな」とこちらが面食らうほどすんなり受け入れ、そのうえ。
「なら義足ができるまでの三日間は体幹強化で」
と宿題までだしてくれたのだった。