午後7時過ぎ・・・喫茶店の忙しさはピークとなる。

「まだ帰ってこないのかなぁ・・・」

柚花は時計を気にしながら料理や客対応をしていた。

早く帰ってこい、早く帰ってこい・・・と思いながら仕事をしているとゆっくりと店の扉が開いた。

「ただいま・・・」

小さい声で入ってくるのは柚花の妹。名を紅葉(もみじ)という。

柚花より背が高く、大人っぽく、胸も大きく、大人しい女の子で綺麗な黒い髪が美しい。

背が低く、活発で幼く見られる柚花とは正反対の妹でパッと見だと柚花の方が妹に見える。

しかしそれはあくまで傍から見たらである。

紅葉(もみじ)ちゃん!服着替えたら手伝って!客対応はあたしがやるから紅葉(もみじ)ちゃんは料理して!」

仕事の事はもちろん、基本的に柚花が指示をしたりする為、見た目は幼くても柚花がお姉さんなのである。




妹の紅葉がすぐに手伝いに入ると柚花はようやく落ち着く。

紅葉の主な仕事内容は料理。人と接するのが苦手だから客対応は柚花が全てやる事になっている。

「ふぅ・・・やっと落ち着いたぁ・・・。」

椅子に座って柚花は水をガブ飲みする。先程までの客対応、料理で大忙しで水を飲む暇がなかった。

「あ、(ゆず)ちゃん・・・」

紅葉も一息ついたのか声をかけていた。

「ん?紅葉ちゃんどうしたの?」

妹の紅葉は姉である柚花に対して必ず「(ゆず)ちゃん」と呼ぶ。お姉ちゃんとは一度も言ったことが無いらしい。

「あ、明日テストがあるから暇になったら部屋に戻って勉強しても良いかな?」

紅葉は柚花より1歳年下の妹で中学3年生の受験生だ。音楽が好きな為、柚花と同じ学校の音楽科を目指している。

「そだね〜。じゃあ取り敢えず8時になったら戻って良いよ。8時になったら客も減るし。」

この喫茶店では8時になると途端に客が減って夜の常連客が数人ぐらいしか来ない。

その暇な時に紅葉は部屋に戻って勉強し、柚花は客対応の合間に学校の宿題をするのだ。