朝にお姉から頼まれたの。今日宅配便来るから家にいてくれる? って。
 エリちゃんが来る前に、宅配が来るかもだし、エリちゃんは平日は午前中に帰っちゃうから、私にお願いしたんだね。

 「もちろん私が受け取りたいし、そのつもりでいたんだけど……さっき彼氏に『今から忘れ物届けに来て』って頼まれちゃって……お願い! 幸が受け取ってくれない?」

 お姉の彼氏は社会人で、自宅から職場までわりと距離があるんだって。
 忘れ物を届けようとするなら、結構時間がかかっちゃうから、「お願い、今日だけ学校休んでほしい」って手を合わせられちゃって。舞い降りてきた急用に、困ってるような様子だった。

 まあ、一日休むくらい別にいいか。別に学業に熱心なわけでもないし、業者さんにわざわざ再配達してもらうのも、申し訳ない。そう思って頼まれた通り、家にいることにした。

 それでしばらく待ってたら、インターホンがなったから、来たな、と思ってドアを開けたんだけど、宅配ではなさそうだった。

 フードを目深に被った、知らない人だった。
 雰囲気は、同年代っぽい男子だったから、知り合いかな? って思ってちょっと固まってたら、
 「幸?」
 って訊かれて、「そうだけど……」と答えたら、
 その男子が、私に抱きついてきたの。

 私驚いちゃって、急いで引き離して、
 「何するの!? 近づかないで!」
 って叫んだの。
 早く家の中に入って、鍵を閉めれば良かったんだろうけど、そんなに冷静になれなくて。
 私がそういう態度を取ったら、その男子の様子がおかしくなっていって。

 「何で? 幸はそんなこと言わない。何で何で何で……」

 それくらいしかはっきり聞こえなかったんだけど、ブツブツ何か言いながら私に近づいてきたんだ。
 それで家の中に入れちゃいけないって思って、「出ていって!」って叫んだんだけど、それが逆効果だったみたい。

 「何でだよ!」
 男子が顔を真っ赤にして怒鳴って、ガッと勢いよく両肩を掴んできた。

 体制を崩してそのまま後ろに倒れそうだったから、とっさにどこかにつかまろうとしたのね。そしたら花瓶を巻き込んじゃって。
 そのとき悲鳴をあげちゃって。悠ちゃんとエリちゃんにも聞こえたと思うけど。

 私が悲鳴をあげたタイミングでちょうどエリちゃんが来てくれて、男子を羽交い締めにして動きを封じようとした。
 それでもまだ足をバタつかせてたから、観葉植物を倒されちゃって。

 エリちゃんは、引きずるようにして男子を外ヘ連れていった。騒ぐ声が聞こえて、急いで来てくれたのか、少し息があがってた。

 すごく助かったよ。ありがとう。私じゃどうにもできなかったと思うから……。
 エリちゃんが出ていったところで、悠ちゃんが駆けつけて来てくれたってことなんだ。