ハッと、目を覚ました。
カーテンの隙間から、白い光。柔らかな布団の感触、友達の寝息。
枕元に置いてあるスマホを見ると、昨夜トイレで打った文章が未投稿の状態で書かれていた。
夢、だったんだろうか。
ゆっくりと起き上がる。ほぼ同時に、朝の館内放送が流れた。
『皆さん、おはようございます。六時をお知らせします、引率団の山口です』
グッチーの、声。
「ちゃんと……生きてる」
声に出すと、涙が溢れそうになる。
グッチーは、私のこと考えて言ってくれたんじゃないか。
情報という毒に、この旅館が侵されないために。
その犯人に、私がならないために。
なんて、取り返しのつかないことをしようとしていたんだろう。
『Y口修学旅行で生徒うそつきよばわりとか人間性うたがうまじむり』
まったく、なんつう逆恨みだ。私はすぐに文字を消した。
全部、夢の中の出来事で本当に良かった。
SNSの怖さや、弊害。散々聞いてきたのに、全部人ごととして捉えていた。愚かだった。もう私、神に誓って軽はずみなこと書き込まない。
画面の下を見ると、一件通知が来ている。なんだろう。何の気なしに開いた。
『岡野秋音さんがあなたをフォローしました』
「岡野……」
岡野、さん。
あの子、SNSとかやってたんだ。しかも、本名で。
どこか能面のようなあの笑顔が、頭をよぎる。
ゾワっ、と鳥肌が立つ。
彼女のアカウントを覗いてみる。
一番上の投稿に、絶句する。
『同じクラスの陽キャ、修学旅行で怒鳴られてて草』
どう考えても。
どう考えたって、私のことじゃないか。
あの女、見てたのだ。私がグッチーに怒られているところ。そして、きっとほくそ笑んでた。
歯ぎしりをする。怒りを込めて拳を畳に叩きつけようとしたその瞬間、左肩に鋭い痛みが走った。
あぁ、これは。
肩に噛みついた黒い塊を見て、少しだけ笑いそうになる。全く、どっからが夢でどっからが現実なのか分かりゃしないーー。
全身の細胞に、少しずつ毒が染み渡る。
朦朧とする意識の中で見つめるあの女の投稿は、どんどん伸びてゆく。
十、五十、百、千、一万ーーーー。
どんどん、どんどん、どんどん。
end
カーテンの隙間から、白い光。柔らかな布団の感触、友達の寝息。
枕元に置いてあるスマホを見ると、昨夜トイレで打った文章が未投稿の状態で書かれていた。
夢、だったんだろうか。
ゆっくりと起き上がる。ほぼ同時に、朝の館内放送が流れた。
『皆さん、おはようございます。六時をお知らせします、引率団の山口です』
グッチーの、声。
「ちゃんと……生きてる」
声に出すと、涙が溢れそうになる。
グッチーは、私のこと考えて言ってくれたんじゃないか。
情報という毒に、この旅館が侵されないために。
その犯人に、私がならないために。
なんて、取り返しのつかないことをしようとしていたんだろう。
『Y口修学旅行で生徒うそつきよばわりとか人間性うたがうまじむり』
まったく、なんつう逆恨みだ。私はすぐに文字を消した。
全部、夢の中の出来事で本当に良かった。
SNSの怖さや、弊害。散々聞いてきたのに、全部人ごととして捉えていた。愚かだった。もう私、神に誓って軽はずみなこと書き込まない。
画面の下を見ると、一件通知が来ている。なんだろう。何の気なしに開いた。
『岡野秋音さんがあなたをフォローしました』
「岡野……」
岡野、さん。
あの子、SNSとかやってたんだ。しかも、本名で。
どこか能面のようなあの笑顔が、頭をよぎる。
ゾワっ、と鳥肌が立つ。
彼女のアカウントを覗いてみる。
一番上の投稿に、絶句する。
『同じクラスの陽キャ、修学旅行で怒鳴られてて草』
どう考えても。
どう考えたって、私のことじゃないか。
あの女、見てたのだ。私がグッチーに怒られているところ。そして、きっとほくそ笑んでた。
歯ぎしりをする。怒りを込めて拳を畳に叩きつけようとしたその瞬間、左肩に鋭い痛みが走った。
あぁ、これは。
肩に噛みついた黒い塊を見て、少しだけ笑いそうになる。全く、どっからが夢でどっからが現実なのか分かりゃしないーー。
全身の細胞に、少しずつ毒が染み渡る。
朦朧とする意識の中で見つめるあの女の投稿は、どんどん伸びてゆく。
十、五十、百、千、一万ーーーー。
どんどん、どんどん、どんどん。
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