一瞬、というか一分くらいは見間違えだと思っていた。

　私ーー岸田いまりは、のそのそと布団から上半身を出し、メガネをかける。カーテンの隙間から差し込むのは、冬の京都の白い光だ。
　修学旅行、二日目の朝。
　初めての関西は、わちゃわちゃしていてとても面白い。街並みも人も、明るく華やいでいる。昨日の大阪の遊園地じゃ遅刻して軽く怒られたけど、それもいい思い出だよね。貸切の旅館も結構良いとこだし、仲良し三人組で同じ部屋に泊まれて、満足。
　で、だ。
　もう一度、例の場所に目線を移す。目を細め、どの角度からどう見たって、

　ーーこりゃ、サソリだ。

　サソリって、あれだろう。砂漠とかにいて、毒を出すヤツ。
　で、たまに人殺しちゃうヤツ。
「えー……マジかよ」
　他の二人はまだ夢の中。私は充電中のスマホに手を伸ばし、まだぼうっとした頭のままでSNSを開いた。

『あき屋の部屋にサソリ的なのいるw』

　ポチッ。
　投稿し、ふと顔を上げて首をかしげる。ザリガニを縮めて黒染めにしたようなそいつは、もうどこにも見当たらない。
　見間違えだよね。うーんと伸びをした瞬間、六時を告げるモーニングコールが旅館中に響いた。