いつかまた、君に会える日まで

「朔くん」
実家で寝ていたら、彼女が僕のことを呼んだ。
「朔くん、久しぶり」
梨緒はあの日びりびりに敗れたはずのセーラー服を着て、僕のことを起こした。
見間違いだと思った。ダメ元で伸ばした手は、彼女のお腹あたりをすり抜けた。
「私の部屋、片付けてくれてありがとう」
そのお礼は全然嬉しくなかった。
嬉しくないありがとうがこの世に存在するのだと、初めて知った。
「なんで、いるの?」
「これから天国に行くの。もう朔くんと話せなくなるから、お別れしに来た」
ぼやっと光る彼女は、あのころと変わらない笑顔で言った。寂しいとは思わないのかと、少し不満に思った。
「これからは、私のことなんて思い出して、クヨクヨしてちゃダメだからね」
「それなら帰って来いよ」
無理を承知で言ってみた。でも本気でそう言うなら、それしか方法がなかった。
「ごめんね」
「朔くん、私のことなんて、もう忘れて」
僕に次の言葉を言う時間もくれないまま、涙ぐんだ声で吐き捨てるように言った。
冷たくしようとして、できなかったのだろう。
幽霊になっても、梨緒の嘘が下手なところは変わっていなくて、少し嬉しかった。
「そんなことできない。好きなんだ。前から、今でもずっと」
三年越しに伝えられた告白は、全然理想的なものではなかった。
君のことは忘れられないと、その理由を無理やり彼女に押し付けたような、酷いものだった。
「……私も、朔くんのこと好きだよ」
「それならっ」
「約束して。いつかまた会えたとき、誰よりも幸せな人生を歩んだ話を聞かせてくれるって」
そう言う梨緒は、さっきよりも少し、薄くなっていた。彼女越しに見えなかった背景が透けて見えていた。
「……わかった。約束する」
無駄にゴネている時間はないと悟った。
彼女の目からは、一筋の綺麗な涙がこぼれていた。
「朔くん、元気でね」
「梨緒も」
「……じゃあ、またね」
僕の言葉に頷いて、彼女はすっと消えていった。
それが、彼女と話した最後の日。