三年前の、梨緒の誕生日のちょうど一ヶ月前。
その日の僕たちは、夜、オリオン座流星群を見る約束をしていた。
「好きです。付き合ってください」
就職先も決まり、身軽になった僕は、流れ星が見える星空の下で告白をしようと決めていた。
春からは隣の県で一人暮らしが始まる。
梨緒は高校生になる。
想いを伝えるなら今だと思った。
夏目漱石にあやかって、「月が綺麗ですね」と言ってみようかとも思ったけど、それに対する返事の意味がすぐに分からないのと、梨緒が知らないかもしれないからやめておいた。
刻一刻とその時が近づいてきて、緊張してコンビニまで歩きに出たその先で、トラックの周りに人が集まっていた。
救急車のサイレンの音がして、その後ろから消防車もくっついてきていて、ただ事ではないことは一目瞭然だった。
一歩、また一歩。
目的地に行くために通過しなければいけないその現場に近づくにつれ、胸騒ぎがした。
「どいてください!担架通ります!」
ちょうど人混みをかき分けて出てきたその担架に、血まみれになった梨緒が力尽きたように寝そべっていた。
「梨緒……?梨緒!」
僕の彼女を呼ぶ声に、救急隊の人が気付いて、彼女と一緒に病院まで行った。
そこからはあまり覚えていない。
まるでタイムリープしたように、気付いたら手術室前の待合室のような場所で、流れ星も見えないこの場所で、必死に彼女の無事を祈っていた。
生きていてほしい。
ただ笑っていてほしい。
彼女の隣に別の誰かが立っても、彼女が生きていればそれでいい。
だから、神様。彼女に未来をください。
この先、僕の幸せも彼女に分け与えて、彼女に幸せな未来をください。
赤いランプが灯る下で、縋るように願った。
途中、おばさんとおじさん、うちのお母さんが来たけど、みんな何も言わずに椅子に腰かけて両手をぐっと握っていた。
しばらくして、パッと電気が消えたかと思ったら、暗い顔をした手術着の先生が出てきて、思い切り頭を下げた。
「最善を尽くしましたが、お亡くなりになられました」
先生の声は震えていた。
おばさんとおじさんは、崩れ落ちて、声を出して泣いていた。
僕の目からも涙が溢れたけど、それよりも心に大きな大きな穴があいて、それを埋める方法は何もないと悟ったとき、生きる光を失った。
これから先、梨緒のいない人生をどう歩んでいけばいいのか、ぼーっと考えた。
次の日から卒業するまで、頻繁に彼女の家に出入りした。
やってきた仏壇に手を合わせ、話しかけ、答えが返ってこないかと試した。
それでも、彼女がなにか言い返してくれることは一度もなかった。
日に日に彼女がこの世から旅立った実感は湧いてくるけど、受け入れられるかは別だった。
唯一救いだったのは、初めて働いて、その忙しさに揉まれている間は寂しさを感じなくて済んだことくらいだ。
そして、結局何も得られないまま、今日で主役のいない誕生日も三年目になった。
その日の僕たちは、夜、オリオン座流星群を見る約束をしていた。
「好きです。付き合ってください」
就職先も決まり、身軽になった僕は、流れ星が見える星空の下で告白をしようと決めていた。
春からは隣の県で一人暮らしが始まる。
梨緒は高校生になる。
想いを伝えるなら今だと思った。
夏目漱石にあやかって、「月が綺麗ですね」と言ってみようかとも思ったけど、それに対する返事の意味がすぐに分からないのと、梨緒が知らないかもしれないからやめておいた。
刻一刻とその時が近づいてきて、緊張してコンビニまで歩きに出たその先で、トラックの周りに人が集まっていた。
救急車のサイレンの音がして、その後ろから消防車もくっついてきていて、ただ事ではないことは一目瞭然だった。
一歩、また一歩。
目的地に行くために通過しなければいけないその現場に近づくにつれ、胸騒ぎがした。
「どいてください!担架通ります!」
ちょうど人混みをかき分けて出てきたその担架に、血まみれになった梨緒が力尽きたように寝そべっていた。
「梨緒……?梨緒!」
僕の彼女を呼ぶ声に、救急隊の人が気付いて、彼女と一緒に病院まで行った。
そこからはあまり覚えていない。
まるでタイムリープしたように、気付いたら手術室前の待合室のような場所で、流れ星も見えないこの場所で、必死に彼女の無事を祈っていた。
生きていてほしい。
ただ笑っていてほしい。
彼女の隣に別の誰かが立っても、彼女が生きていればそれでいい。
だから、神様。彼女に未来をください。
この先、僕の幸せも彼女に分け与えて、彼女に幸せな未来をください。
赤いランプが灯る下で、縋るように願った。
途中、おばさんとおじさん、うちのお母さんが来たけど、みんな何も言わずに椅子に腰かけて両手をぐっと握っていた。
しばらくして、パッと電気が消えたかと思ったら、暗い顔をした手術着の先生が出てきて、思い切り頭を下げた。
「最善を尽くしましたが、お亡くなりになられました」
先生の声は震えていた。
おばさんとおじさんは、崩れ落ちて、声を出して泣いていた。
僕の目からも涙が溢れたけど、それよりも心に大きな大きな穴があいて、それを埋める方法は何もないと悟ったとき、生きる光を失った。
これから先、梨緒のいない人生をどう歩んでいけばいいのか、ぼーっと考えた。
次の日から卒業するまで、頻繁に彼女の家に出入りした。
やってきた仏壇に手を合わせ、話しかけ、答えが返ってこないかと試した。
それでも、彼女がなにか言い返してくれることは一度もなかった。
日に日に彼女がこの世から旅立った実感は湧いてくるけど、受け入れられるかは別だった。
唯一救いだったのは、初めて働いて、その忙しさに揉まれている間は寂しさを感じなくて済んだことくらいだ。
そして、結局何も得られないまま、今日で主役のいない誕生日も三年目になった。