「梨緒、おいしい?」
私の席にご飯を置き、手を合わせる。
お母さんは、自分のおかずを口に運んだあと、そう私に話しかけた。
「うん、美味しいよ」
今日のメニューはハンバーグ。付け合せはサラダと、人参のバターソテー。長内家の王道ハンバーグプレートだ。
「朔夜くんと、どんな話したの?」
ジュワッと出てくる肉汁がお皿に広がる。
ソースが切り口の隙間を伝って流れていく。
でも、そんなのお構いなしに私たちはこの時間に色んな話をする。
「もうすぐ誕生日だねーって」
十分足らずで帰っていった朔くんとは、あまり濃い話は出来なかった。
私に関しては、振る話題もないのだけど。
「今年も誕生日はオムライスにしようか」
「うん」
一番好きな食べ物。幼いころからずっと、私の誕生日はほとんどオムライスだった。
「卵買いに行かないとね」
少し気合を入れた様子で、笑うお母さん。
「気が早いよ」
そう、私も笑う。
「梨緒は今年で十八だもんね。ちょっと豪華にしようね」
そんなことないと、少しワクワクした声色で、イキイキした表情で、誰の誕生日よりも気合を入れて話を進める。
「別にいいよ」
反抗期とか、PMSのイライラとかではなく、本当に素直にそう思った。
「いつまでも、特別じゃなくていいよ」
「お母さんにとって、梨緒はずっと特別だから」
「……お母さん……」
心が痛かった。嬉しさで目が潤む。
お母さんは気付いていないけど、私はちょうど半分半分の気持ちで、もうお腹がいっぱいになってしまった。
「ありがとう」
ごめんねの似合わない雰囲気で、つぶやくように言葉にした。
お母さんは何もなかったように、器用にナイフでハンバーグを切り、口に運んでいた。
「あとで朔夜くんが持ってきてくれたお菓子、一緒に食べようね」
「うん」
そのあとからは無言で、ただ平和な食卓で静かな時間が流れていた。
私から話しかけられるのを待っているのか、寂しそうに残りを食べていくお母さんは、やけに小さく見えた。
そんなお母さんに、心の中でごめんねと、ツンとする鼻の痛みに耐えながら謝った。