テーブル越し、久しぶりに会った三つ上の幼なじみ、三年前まで隣に住んでいた、山内朔夜くん。通称朔くん。
高校を卒業してすぐ、社会人になった彼は、隣の県の割と大きな会社に就職が決まり、一人暮らしを始めていた。
「梨緒、久しぶり」
朔くんはご当地のお土産を置き、まだ拭えない寂しさを醸し出しながら、私に話しかけた。
「久しぶりだね。元気だった?」
「元気かって聞かれると、まあそこそこかな。言わなくてもわかってるかもしれないけど」
そう笑う顔は、少し疲れているように見えた。
きっと無理して私に会いに来るから。
疲れているなら、自分のことを優先してしっかり寝てリフレッシュしてほしいのに。
「そうだ、もうすぐ誕生日だね」
朔くんは、わざとらしく言った。
あたかも今ふと思い出したかのように、頭の右上に豆電球が浮かんでいる人と同じような動作をした。
毎年、この日に同じ話をするのに。
「そうだね」
「何が欲しいもの、ある?」
朔くんは被せ気味に、今年も私に欲しいものはないかと聞いた。
「……特にないかな」
思い浮かぶ欲しい物は何もなくて、これから必要になりそうなものも、何もなかった。
「うん。梨緒ならそう言うと思った」
寂しそうに笑うその姿に、心が痛くなる。
ごめんね。ありがとう。……ごめんね。
届くわけないけど、心の中で朔くんに謝る。
「私のこと、なんでもわかってるね」
「わかっちゃうもんな、幼なじみだから」
自信満々にそう言って、立ち上がった。
「帰っちゃうの?」
「明日仕事だから、もう帰るね」
「そっか。なら仕方ないね」
来なくていいと思っていながら、やっぱり引き止めたくなってしまう。
朔くんのことが好きだから。
じゃあ、と手を振った彼に手を振り返して、聞こえない声で「またね」と言った。
「来てくれてありがとうね」
「いえ、また来ます」
お母さんと朔くんの話し声は、決して明るいとは言いがたかった。
部屋の隣にある玄関が閉まる音は、この瞬間がいちばん寂しく聞こえる。
私のことなんて、簡単に会えないのだから、もう放っておいて欲しかった。