そして今、ふたりの姿は校舎裏にあった。私は校舎の陰から、その様子を見守っている。
「さ、沢田先輩……。こんなところに来て欲しいって、まゆの告白の返事をしてくれるってことですか……?」
「うん、ようやく決心がついたよ、西村さん。初めに言っておくと、俺はまだ君のことをよく知ってるわけじゃない。
 だけど、とても健気でかわいい女の子だってことは知ってる。だから俺は、君の告白にオーケーしようと――」

 うん、それでいいんだよ、慎一郎くん。君は西村さんと幸せになればいい。
 ……そして私はそれを見届けて消えてしまうのだろう。彼とはこれで、本当にさようならだ。
 でも、それでいいのだ。我が人生に一片の悔いなし。心の奥底から、私はそう思って――、

「ごめんなさい、先輩!
 やっぱりまゆは先輩と付き合うことはできません!!
「…………へ?」
 頭を下げる西村さんに、素っ頓狂な声をあげる慎一郎くん。
 思わず私も飛び出して、西村さんを問い詰めてしまう。

「ど、どういうこと、西村さん!? だって、あなたのほうから告白したのに――」
「うわっ、小早川先輩!?」
「え、見えてるの、西村さん!?」
 慎一郎くんへの説明は後回しだ。それより西村さんの真意を確かめないと!


「そうだったんですけどね……。まゆは思いました。
 小早川先輩こそが沢田先輩にふさわしい、広い心を持った素敵な女性なんだって。
 "今の"まゆじゃ、とても太刀打ちできません。だから、告白はなかったことにして欲しいんです」
 西村さんはこれまでにない神妙な表情だ。

「だけど、あたしはこれから、もっともっと素敵な女の子に成長します。
 だから、そのときになったら、もう一度改めて沢田先輩に告白したいんです」
「……なるほどね。ひまりとどんな話をしたのかはわからないけど、その気持ちはよく分かったよ。
 それなら俺はそのときまで待ってるよ。西村さんが改めて決心をするまで」
「待ってなくていいです。まゆの気持ちの問題ですから。
 他にいい人が現れたら、さっさとその人と結ばれちゃってください」
「あはは、いつになるかな。そんな人が現れるのは」


 そうして西村さんとはそこで別れた。私と慎一郎くんは、彼女を残して校舎内に戻っていく。
「あーあ、なんでこうなっちゃうのかな。
 せっかくいい感じになりそうだったのに」
「仕方ないよ、ひまり。俺の気持ちだけじゃ、どうにもならないんだからさ」
 そりゃそうだけどさ。私はこれできれいさっぱり現世に別れを告げるつもりだったんですけど?

「でもまあ、もうしばらく慎一郎くんの面倒を見てあげるのも悪くはないか」
「そりゃいいけど、いつまで俺のそばにいるつもりなの?」
「うーん? 死がふたりを分かつまで?」
「だから突っ込みにくいってば!」

 慎一郎くんのツッコミはとても心地がいい。うん、こんな関係を続けるのも悪くはないよね。
 ……だけど、私はまだまだ成仏できそうにないのでした。