刑事は「エイの骨はどこから手に入れたのか」「どうしてエイが実在しないと主張したのか」と質問をぶつけたが、竜胆は答えず沈黙したままだ。
そこで竜胆は「もういい加減にしてくださいよ。
こんな馬鹿げた話を信じてくれる人なんているんですかね」と逆切れした。
そこで刑事は「いるんだよ!」と怒鳴ると竜胆の顔面を殴った 。
竜胆は鼻血を出しながら床に転がった。
そして、また殴られると観念したように事の顛末を語り始めた。
竜胆はカンフー商会の社長だ。
しかし、彼は昭和47年にカンフー商会に入社した社員だ。
つまり創業
メンバーではない。
当時、カンフー商会は県下最大の冷凍庫工場を持っていた。
カンフー商会は県産品の加工食品を海外向けに輸出していたが、同時に県外からの水産加工品の輸入も行っていた。
カンフー商会は、県産品の加工食品を海外向けに輸出しながら、水産加工品の輸入を行っていた。
それは、海外からの輸入品の方が国内で流通する商品より安く買えるからである。
海外との貿易摩擦解消のために日本製品に関税がかけられるようになった。
しかし、国内業者は海外から輸入する方が安いため、輸入規制がかかっても国産品の売れ行きは落ちずにむしろ伸びた。
海外向けの加工食品の出荷量が年々増え続けた。
一方で、国内から外国へは水産加工品が輸出された。
そのため国内の加工食品メーカーは売れ筋の加工食品を海の向こうに持っていかれてしまった。
カンフー商会は県内最大の冷凍庫工場で生産された魚介類を海外のレストランに販売することで利益を得ていた。
だが、それだけではとても利益が足りない。
そこで、自社で水産加工品を作り始めた。
最初は近海で獲れた魚を塩漬けにしただけだった。
それでも売り上げは上がった。
カンフー商会は、生産した水産加工品を海外に売ることでさらに儲けを出した。
一方、カンフー商会の社内で「エイの骨が見つかった」という噂が流れた。
噂を聞きつけたカンフー商会の専務はカンフー商会の倉庫に駆けつけた。
そこには骨どころか冷凍された人間の白骨死体があった。
専務は、これが見つかれば大問題になると考え、社長に相談した。
竜胆は、自分の判断で警察に通報することにした。
竜胆は、専務と共に鶴見署に行き、白骨死体を見つけた経緯を説明した。
だが、鶴見署の警部は、そんなことはありえない、と一蹴した。
竜胆は、エイの骨は冷凍庫の天井から吊るされていたと説明した。
だが、鶴見署の警部は、エイの骨が冷凍庫のどこに吊られていたか知っている者はいないと断言した。
竜胆は、エイの骨は氷柱のように天井から吊り下げられていると言った。
だが、鶴見署の警部は、そんなものは見たことがないし聞いたこともないという。
そこで竜胆は、エイは生きている状態で冷凍庫に入れられていたという仮説を立てた。
鶴見署の警部は、エイが生きている状態で冷凍庫に入れられていた証明ができるのかと問うたが、竜胆は「できますとも」と胸を張って言った。
鶴見署の警部は、それを証明するためにエイの白骨遺体の骨片を持ってこいと命令した。
竜胆と専務は、カンフー商会に戻り、冷凍庫からカンフー商会の従業員によって発見されたエイの白骨遺体を持ち出した。
そして、鶴見署の警部の前に差し出し、この骨がそうだと示した。
だが、鶴見署の警部は「これのどこがエイの骨なのか」と呆れてものも言えない様子だった。
そこで竜胆は「これはエイの骨です。
私が保証します。
これで十分でしょう」と言うと、鶴見署の警部は「いや、エイの骨はもっと大きい」と言って、竜胆たちの目の前で白骨遺体の骨片を粉々に砕いて見せた。
竜胆は、鶴見署の警部の行動を見て、この人は狂っていると思った。
鶴見署の警部は、竜胆にエイの白骨遺体の発見場所について尋ねた。
竜胆は、冷凍庫の中にあったと答えた。
すると鶴見署の警部は、エイが生きていた証拠はあるのか、という。
竜胆が、エイが生きていれば、白骨化した死体にはならない、と答えると、鶴見署の警部は、エイは死んで白骨化していると言った。
竜胆が、エイは生きて白骨化していないと主張すると、鶴見署の警部は、エイが冷凍庫の中で生きていないという証拠はあるのか、と言う。
竜胆は、冷凍庫の中の白骨死体には毛髪がないと答えたが、鶴見署の警部は、「髪の毛のあるなしで生死を判断することはできない」「そもそも冷凍庫の中にエイがいれば、毛髪があるはず」「もし仮に毛髪があったとしてもエイが生きていれば、毛髪を食うはずだ。
毛髪が残ってるということは、エイは死んでいる」と竜胆の主張を退けた。
竜胆は、鶴見署の警部に「あなたは刑事じゃない。
あなたが殺したんだ」と言った。
すると鶴見署の警部は「お前らがやったんだろう! 白状しろ!」と言い返した 。