翌朝、アモルとシオンは早々と宿を後にし、エレメント家の屋敷に向かおうとする。
しかしその道は近いようで遠かった。

「アモル、この道……」

「モンスターの巣か……」

アモルたちが屋敷に向かおうとしていた最短の道。
そこにはモンスターの群れが砦を作っていた。

「どうする? この道が通れないとかなり大回りになるけど……」

「う~ん、でもモンスターの数もかなり多そうだしな……。ここは無理をせずに回り道を――」

そう言って道を変えようかと思案していると……。

「うおおおっ!!」

モンスターの砦から凄まじい声が響き渡る。

「な、なに!?」

「この声……まさか!?」

響く声にアモルは聞き覚えがあった。

「シオン、手伝ってくれる?」

「え? ……もちろん!」

アモルが一人で突撃せず、自分を頼ってくれることがシオンはとても嬉しかった。
シオンはアモルに頷くと一緒に走り出す。



「うおおっ!」

砦で轟音を響かせモンスターを薙ぎ払っていたのは、4属性姉妹の父、ゴンノスケであった。
モンスターをもビビらせるその剛腕で、次々と薙ぎ払っていく。
だがやはり多勢に無勢、モンスターはじわじわとゴンノスケに迫る。

「ぬううっ……この砦を壊さねばエレメント家は……」

「ゴンノスケさん!」

ゴンノスケの背後に迫っていたモンスターを吹き飛ばし、アモルとシオンが着地する。

「君は……アモルくんか! 行方不明と聞いていたが……」

「説明は後です。こっちは僕とシオンがやります。ゴンノスケさんはそっちを!」

「心得た!」

背後を守られたゴンノスケは、正面から来るモンスターを次々と蹴散らしていく。
アモルとシオンも、二人協力しながらモンスターを倒していく。

(でもさすが、先輩たちの父親だ。モンスターを難なく片付けている。
先輩たちのことで認められてなかったら大変だっただろうな……)

そんなことを考える余裕を持ちながら、アモルはモンスターの最後の一匹を吹き飛ばした。



「なるほど……。学園でそんなことが……」

アモルとシオンはこれまでの経緯を説明し、屋敷に向かおうとしていたことを話す。

「そうだ、ゴンノスケさん。着いてから聞いてもいいんですが、屋敷に先輩たちは?」

その質問にゴンノスケは、先程までモンスターを蹴散らしていた者とは思えない、涙を浮かべる。

「娘たちは……ヒノとアスは行方不明のままだ。
スイは三年前、運よく屋敷の近くに飛ばされてきたのだが未だ目を覚まさない。
そんなスイのために、戻ってきていたフウが薬草を探しに行ったのだが、半月経っても戻ってこないのだ」

「フウ先輩が……」

「そしてな、エレメントの屋敷にモンスターが攻めてくるのもこの砦からだと調べてな。
フウはモンスターに襲われたのではないかと思い攻め返しに来たのだ。貴殿らと会えるとは思っていなかったが」

「ゴンノスケさん……」

アモルはシオンの方を見る。シオンもわかってるというように頷いた。

「ゴンノスケさん。フウ先輩はどこに行ったか、だいたいの方角を教えてください」

「私たちがフウ先輩を探します」

「い、いいのか?」

「もともと、皆を探すつもりでしたから。ゴンノスケさんは屋敷に戻ってください。
……スイ先輩とエリスさんだけ残すのは危険でしょう?」

それを聞いてゴンノスケはハッとした。

「すまぬ、アモルくん。フウを見つけてくれ。
この近辺に向かったのは間違いないのだが……」

「わかりました。フウ先輩を見つけて屋敷に向かいます!」

「頼む……」

そう言うとゴンノスケは砦を去っていく。

「……でもアモル。どこを探す? この近辺って言っても漠然としてるよ?」

「フウ先輩は薬草を探しに行ってる、って言ってた。この辺りで薬草が取れる場所を調べるしかないよ」

アモルとシオンは協力して、薬草が取れる場所を調べていく。
しかし、どこを探してもフウの姿は見つからない。

「おかしいな……これだけ探しても見つからないなんて」

「……ねえ、アモル。あそこ」

シオンがアモルの耳元で囁く。内緒話をするように。
そしてシオンが指さす方向を見て、アモルは理由に気が付いた。

見えにくい岩陰に洞窟があり、そこに怪しげな男がコソコソと入っていく。

「怪しいね……」

「怪しいよね……」

二人は頷き合うと、怪しい男を追いコッソリとつけていく。

「こんなに広い洞窟が隠れていたなんて……」

「あ、アモル、あそこ」

シオンが目配せした先には、先程の怪しい男の他に複数人の悪漢たちがたむろしていた。

「盗賊たちのアジトみたいだね……」

「こんな時代に盗賊なんて……!」

シオンが憤りを見せる。
落ち着いてシオンをなだめるアモルだったが、
盗賊たちの後ろに見える宝の横にいる人たちを見て驚いた。

「あれは……!」

「アモル?」

落ち着いたシオンが今度はアモルの様子を見る。
アモルの視線の先を見てシオンも気が付いた。

「フウ先輩……!」

盗賊に捕らわれている数人の中に、フウの姿が見えたのだ。

「シオン、後ろを見張ってて。行ってくる」

「わ、わかった」

シオンが頷くのを見て、アモルは堂々と盗賊たちの前に姿を現した。

「な、なんだ、てめえっ!?」

「お、親分。こいつ、この辺をうろついてた奴ですぜ!」

「なにいっ!? 嗅ぎつけられたか!」

盗賊たちの戯言を無視し、アモルは魔法弾を構えた。

「親分、こいつやる気ですぜ!」

「おもしれえ! この人数差で勝てる気でいるかよ!」

盗賊たちが一斉にアモルに襲い掛かる。
モンスターの群れではない。アモルは殺さないように魔法弾で吹き飛ばしていく。
だがやはり多勢に無勢、徐々に追い詰められていく。

しかしアモルも考えなしに出てきたわけではない。
魔法弾での爆音が響く中、しばらくするとアモルは盗賊たちではない方向に小さめの魔法弾を撃った。

「どこ狙ってやがる!」

盗賊の親分が武器を振り上げアモルに迫った時だった。

「うおっ!?」

「な、なんだっ!?」

盗賊たちの背後から謎の暴風が吹き荒れる。
そこには捕まっていたフウが解放され立っていた。

「なにいっ!? いつの間に!」

「さっきの魔法弾、なんでそっちに撃ったかわかったでしょ?」

そう、アモルの魔法弾は、捕らわれていたフウのロープを切っていたのだ。
魔法弾の爆音は、気絶していたフウを目覚めさせていた。

「……助かった。ありがとう。アモル」

フウは得意の風魔法で、盗賊たちをまとめて吹き飛ばす。
アモルも協力してそれに追撃していく。ものの数分で盗賊たちは撃沈した。

「……改めて、ありがとう」

盗賊を縛り、他に捕まってた人たちを解放する中、フウがアモルに改めて礼を言う。

「いえ、先輩が見つかって何よりです」

「……その言い方、父様に頼まれた?」

「そうです。ゴンノスケさん、心配してましたよ」

フウは苦笑いをした。
ゴンノスケの喜び泣き叫ぶ様子が目に浮かぶからだろう。

「アモルー! フウ先輩! 行くよー!」

シオンが洞窟の入口で呼んでいた。

「シオン、 今行くよ」

アモルが向かおうとした時だった。

「アモル」

「はい? なんですかフウせんぱ――」

フウがそっとアモルの頬に口づけした。
アモルはぽかんとし、シオンは声にならない叫びをあげる。

「……ありがとう」

そう言ってフウは顔は赤いまま無表情に戻ると、走ってシオンの横を通りすぎた。



フウは盗賊に捕まっていたものの、薬草は無事に回収できていた。
これで一件落着、とアモル、シオン、フウは、エレメント家の屋敷に向かっていく。
そこにすごい勢いで向かってくる影。

「……父様」

「ゴンノスケさんだ。おーい! フウ先輩見つかりましたよ!」

だがゴンノスケからは別の重大事が叫ばれていた。

「アモルくん! フウ! スイがさらわれたー!」