普通なら三日かかる道を一日半で駆け抜けたアモルは、
息を切らしながらも大きな町にたどり着く。

「ここに誰かが……」

アモルはまず町を見て回る。
大きな町だが、やはりモンスターの影響は大きいのであろう。
所々家屋が崩れ、町の人たちの活気もあまりない。

「すみません、人を探してるんですが――」

「……いえ、見てないねえ、君以外によそ者は」

「すみません人を――」

「う~ん見てないなあ。宿の人か酒場の人に聞くのがいいんじゃないかい?」

アドバイスに従い、アモルは酒場をのぞいてみる。
昼から酒を飲む酔っぱらいが主な客で質問は出来なかったので、有能そうな酒場のご主人に話を聞くことにする。

「あの、人を探しているんですが……」

それを聞いて酒場の主人の眉がぴくっと動く。

「もしや貴方はアモル殿?」

「え?」

「そのようですな。先程一人の女性が聞いてきました。
見かけたら宿に来るよう言伝を頂いておりました」

「あ、ありがとうございます! 宿に行ってみます!」

すぐさま酒場を出て走り、宿の扉を勢いよくを開けた。

「お客様、扉はゆっくりお開けください」

「あ、すみません……」

そっと扉を閉めると、宿の主人に質問する。

「アモルといいます。ここに僕を探している人が来ていませんか?」

「アモル……。ああ、そういえば」

宿の主人はカギをチェックしながら呟いた。

「二階の奥の部屋に行きなさい。おそらくまだ部屋にいるはずです」

「あ、ありがとうございます!」

アモルは二階に上がると、一番奥の部屋をノックする。

「はい?」

アモルの耳に聞いたことのある、しかし成長した声が届く。

「あ、アモル……だけど」

それを聞くと、扉が勢いよく開いた。

「アモル!?」

「え……も、もしかしてシオン?」

開いた扉の中にいるシオンの姿を、アモルは一瞬わからなかった。
三年前よりも背が伸びたのはもちろんだが、短かった髪が大きく伸びていたからだ。
可愛かった見た目も、美人と言える容姿になっている。

一方、扉を開けたシオンもアモルをすぐにわからず驚いていた。
シオンの記憶では、アモルと背丈はそこまで変わらなかったから。
それが自分を大きく上回る背丈と、声の低さ、カッコよさで驚きを隠せない。

「あ、でもその目。本当にアモル。……アモルなんだね!」

シオンは嬉し涙を浮かべながら、アモルに抱き着いた。

「シオン……!」

アモルも嬉しさで抱き返そうとして、一瞬戸惑いやめた。
シオンを軽くなでるが、すぐに引き離し、本題に入る。

「シオン。ラヴやエレテ、先輩たちはどうなったか知らない?」

その質問にシオンは寂しさと怒りで複雑な表情になる。

「……わかるよアモル。みんなが心配なのは。でも!」

シオンはアモルを押し飛ばすと、嬉し涙から怒りの涙で叫んだ。

「もう少し私との再会を喜んでもいいじゃない!」

そう言うと勢いよく扉を閉めた。

「あ……」

アモルはただ扉の前で立ち尽くすしかなかった。



「おや、どうしました? 何やら大声が聞こえましたが……」

宿の主人が心配そうに、しかしわかっているように様子を聞いてくる。

「ええまあ……怒らせてしまって」

そう言うとアモルは自分も宿に泊まれるか聞いてみるが、部屋はもう空いていなかった。

「仕方ない……野宿でいいか」

さっきシオンを怒らせた罰だな、と思いつつアモルは宿を出て町の外へ向かおうとする。
そして町の近くでたき火を付け、眠ろうとした時だった。

「アモル」

「……シオン?」

シオンがいつの間にか町の外まで追いかけて来ていた。

「なんでここに……」

「……さっきは怒り過ぎた。ごめん」

「いや、こっちこそ、ごめん」

アモルは改めてシオンに近づくと、そっと抱き寄せた。

「僕も、シオンと再会できて嬉しい。本当だよ」

「うん……うん……!」

シオンは再度、嬉し涙を零しながら、アモルに強く抱き着いた。



その後、シオンがどうしてもと言うので、アモルはシオンの部屋にお邪魔することにする。

「で、皆の行方だったよね」

「うん、僕は三年間、眠っていたらしいから。シオンなら知ってるかなと思って」

しかしそれを聞いてシオンも困った表情をする。

「ごめんねアモル。実は私もまだ特に情報がないの。
私が目覚めたのは一年前。遠くに飛ばされてて、この辺りに戻って来たのもつい最近で」

「そう……か」

「あ、でもね!」

シオンは荷物から地図を取り出すと机に置いて一か所を指差した。

「私たちがいる町はここなんだけど……。こっち。ここを見て」

シオンの案内通りに地図を見る。
シオンの指の先には、ひときわ大きな屋敷の図が書かれている。

「ここは、もしかして」

「そう、先輩たち、エレメント家の屋敷。アモルは行ったことあるでしょ?」

エレメント家の屋敷。
アモルが予言を聞くために、ヒノ、スイ、フウ、アスの4属性姉妹とともに行った姉妹たちの実家。

「確かに……。先輩たちの母親、エリスさんなら何か知っているかもしれない」

「それに先輩たち自身も戻ってるかもしれないよ」

「うん、じゃあ明日は屋敷に向かおう」

目標が決まり、アモルたちは眠ることにするが……。

「シオンはベッドで寝ていいよ。僕はこっちの椅子で眠るから」

そう言って椅子にもたれ掛かるアモルに、シオンは緊張しながら提案した。

「アモル……一緒に寝ない?」

「!?」

驚きでアモルは椅子から崩れ落ちる。

「シ、シオン? 僕たちも大きくなったんだし、そんなことは……」

「アモルとなら……一緒に寝るくらい平気だよ?」

「っ……」

成長したシオンの表情がすごく妖艶に見えて戸惑うアモル。
しかしゆっくりとベッドに近づくと、シオンの横にそっと座った。

「ね、寝るだけだからね!」

「うん。それでいいよ」

アモルはすぐに布団に潜るとシオンの方を見ずに目を閉じる。
最初は緊張していたアモルだったが、疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。

寝息を立てるアモルにシオンがそっと近づく。
そしてそっとアモルの頬に口づけした。

「生きていてくれて……ありがとう。アモル」

そう言ってシオンもアモルの隣で眠りに落ちるのだった。