「その鶏皮って、味付いてないよね」
「軽く湯通ししているだけだよ」
「良かった」
「どういうこと?」
「人間からもらう食べ物は味が濃かったり消化が悪かったりして、猫には合わないことが多いの。それに、毒になるものだってあるし。野良猫が人から食べものをもらうのは危険なことでもあるんだ」
「そっか。人間と猫は身体の作りが違うもんね」
人間の血も流れている私はあまり気にしたことはなかったけど、お母さんと暮らしていた頃はいつも気を遣っていた。
「それに、世の中には猫に酷いことをする人だってたくさんいる。騙されないようにするには、慣れない方が良いこともあるの」
「無闇に餌を与えるのが、正解というわけじゃないんだね」
「うん。野良猫は野良猫の世界があるから、あまり関わっちゃいけないって、お母さんがーー」
「やっぱり、三宅さんは猫の子だったんだね」
「あ……」
知り合ったばかりの人なのに、どうしてこんなに自分の秘密を暴露してしまったのだろう。うっかりにも程がある。
でも西君は本当に不思議な人だ。
私の正体を知っていても、顔色一つ変えずに私に接してくれる。
「俺、実は三宅さんが猫だってこと、前から知ってたんだ」
「え……?」
「講義が終わるといつも盛大に伸びをして、その時だけ尻尾を出してるよね。俺も講義の時はいつも一番後ろの席に座るから見えてたんだ。それに、普段の仕草からも自然に出てるよ、猫らしさが。ほら、基本的にはいつも一人でいるし、歩く時なんて、足音を立てないようにしてるじゃん」
「も、もしかして、ほかの人達にも気付かれちゃってるのかな……」
顔が熱くなって、全身から汗が吹き出てくる。尻尾がピンとなっているのを隠す余裕なんてもう無い。
「そこまではわからない。やっぱり正体がバレるとまずいの?」
そこまで言われて、ようやく私は自分の過去を西君に話した。