駅の前の大通りには、できて間もない血痕が残されていた。母猫の亡骸は保健所の人が片付けてしまったのだろう。

あたりを探してみると、子猫はすぐに植木の奥から出てきた。

母猫が亡くなったのは今朝の出来事だから、この子はまだお母さんが亡くなったことが理解できていないのかもしれない。

けれど私の顔を見ると、すぐに母猫を呼ぶような甘い声で鳴きながら、私の足に擦り付いてきた。

気が付けばこの子を胸に抱えていた。

「どうしよう……私、この子のこと、すごく可哀想だって思っちゃってる」

今、私はたった一匹の小さな猫に同情している。

「放っておけなくなっちゃってる……」

「三宅さん。俺、実は今日ミケを保護して里親を探そうと思ってたんだ。嫌がってでも一旦連れ帰って、時間をかけて信頼関係を築いて、良い人に引き渡せたらって。でも、今ミケにとって必要なのは三宅さんじゃないかなって思うんだ。そこで提案なんだけど、一緒に暮らさない?」

「……一緒にいてあげたいけど、一人でこの子の面倒を見るなんて無理だよ」

私だってこの子を放っておけないし、できることなら面倒を見てあげたい。でも、申し訳ないけど、私はお金も無いし、この子の面倒を見てあげられる時間も余裕もない。

「あ、えっと、そうじゃなくて。俺は三宅さん一人にミケを任せようなんて思ってないよ」

「どういうこと?」

「三人で暮らさないかってこと」

「え……?」

「実は俺、三宅さんの猫らしいところと人間らしいところ、両方の君が好きなんだ。俺と三宅さんで面倒を、いや、この子と三人で暮らしてみませんか?」

いつもぼうっとしているような顔をしている西君は、照れくさそうな顔をしてそう言った。

簡単な事じゃないくらいわかっている。

でも、一見無謀にも思える西君の提案は、人間としても猫としても生きて良いんだと言ってくれている気がして嬉しかった。

君は私らしく、猫らしく生きて良いんだ。

「駄目、かな?」

「ぜひ……。よろしくお願いします」