西君とは大学の構内ですぐに再会することができたけれど、お互いにゆっくり時間を取って話をするとまではいかなかった。

西君はいつも参考書を広げて忙しそうにしていたし、私の方も課題を終わらせるのに必死だった。それでも、時折タイミング良く話す何気ない会話が、私にとってのかけがえのない時間になった。

「三宅さん、ちょっと良い?」

少しだけ鼓動が早くなるのを感じながら、今日も私はいそいそと振り返った。

けれど、久しぶりに再開した西君の表情は、今にも泣きそうになくらいに落ち込んでいた。

「今朝、あの子猫のお母さんが、車に轢かれてた」

「え……?」

そんなこと、と言ったらバチが当たるかもしれない。

野良猫が命を落とすことなんて、向こうの世界では日常的なこと。少なくとも私はそう教えられていた。自然界では、命を落とすこと自体も自然の流れに過ぎない。でも、

「そう……」

変だな。残されたあの子のことを考えていたら、胸の奥が苦しくなってくる。

「悲しいこと言ってごめん。俺がただ三宅さんに聞いて欲しかっただけなのかもしれない」

「ううん。話してくれてありがとう」

西君は本当に優しい人だと思う。

きっとあの母猫も、西君は心の優しい人間だということを理解していただろうし、感謝していたはず。

「ごめんな……」

「どうしてそんなに謝るの?」

「だって、三宅さん、泣いてるし」

「……え?」
 
言われて初めて自分が泣いていることに気が付いた。

こんなに胸が苦しくなるのは、やっぱり人間に近付いてしまったからだろうか。

「俺、この後あの子のところに行こうと思う。できれば三宅さんも一緒に来てほしい」

あの場所に行って自分がどう感じるのかが怖い。私にはもう猫の気持ちはわからない。

でも、それ以上に、あの子のことが心配だ。

「うん。私も行く」