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~クラフト村~

「よし。それじゃあそろそろ行こうか――」

 グレイから凄い手紙を貰って早1ヵ月。
 遂に王都で開かれるモンスター討伐会を2日後に控えた僕達は、討伐会に参加する為に久しぶりに王都へと向かうつもりだ。

 支度を済ませ、町長さんやサラさんに「行ってきます」と伝える僕の横にはレベッカがいる。それと最早当たり前と化したルルカとミラーナも一緒だ。

「ジーク君なら必ずや優勝出来ますな! お祝いの準備をして待っていますよ」
「ハハハ、それは気が早過ぎますよ町長さん。でも精一杯頑張ってきます」
「王都に行くのは久しぶりですね、ジーク様」

 クラフトを村を出る最後にそんなやり取りをしていると、突如イェルメスさんが大きな声で僕の名を呼びながら駆け寄って来た。

「ジーク君、良かった良かった間に合って」
「そんなに慌ててどうしたんですかイェルメスさん」
「いや“コレ”を君にと思ってな。想定よりだいぶ造るのに時間が掛かってしまってギリギリになったけどね」

 そう言いながらイェルメスさんは手にしていた一振りの剣を僕をくれた。戸惑いながらも鞘に収まる剣をゆっくり抜くと、僕の視界に飛び込んできたのは綺麗な赤い輝きを放つ、何とも神秘的で珍しい刃が施された剣だった。

「こ、これは……」
「ああ。ジーク君に貰ったあの赤い結晶で造った物だよ。あれはゲノムの様な黒魔術でしか生まれない特殊な素材でもあってな。滅多に手に入らない挙句に練成に時間が掛かってしまって、間に合うかヒヤヒヤしたよ」

 イェルメスさんから貰った剣は驚くぐらい手に馴染んだ。しかも今までに感じた事の無い様な力が剣から伝わってくる。

「村で錬成のスキルを持った者達にも手伝ってもらったお陰で今さっき完成する事が出来たんだよ。皆君に恩返しがしたいらしくてね、ジーク君の為ならと率先して手を貸してくれた訳さ」

 優しく微笑みながら言うイェルメスさん。僕はその言葉と皆の思いに思わず涙が出そうになった。

 ここまでしてもらったら絶対に悪い成績は残せないな。

「イェルメスさんも皆さんも、本当にありがとうございます! どこまで出来るか分からないけど、頑張ってこの剣で優勝を目指してきます!」 

 僕はグッと力強く剣を握り締め、レベッカとルルカとミラーナと共に王都へと旅立った。

♢♦♢

~王都~

「うっは~、久々に来たんよ王都。やっぱ人多いな」

 クラフト村を出た翌日。
 前はレベッカとずっと歩きだったから時間が掛かったけど、今回は途中でミラーナに乗せてもらった事もあってかなり早く着く事が出来た。

「それよりジーク、私はベヒーモス化で体力を使ってお腹が空きましたわ」
「ハハハ、そうだよね。ここまでありがとうミラーナ。そうしたら皆で何か食べようか」

 そんな会話をしながら、僕達は王都にある冒険者ギルドに向かって歩き出した。今日泊まる予定の宿もギルドから近いし、何より王都のギルドは規模がかなり大きいから色々な商店が入っている。勿論料理屋も。

 昔2、3度だけ僕も王都のギルドに来た事があったけど、まさか自分がちゃんと冒険者となってここに来るとは思ってもみなかったな。

 王都は明日のモンスター討伐会に向けとても賑わっているし、冒険者ギルドにも凄い人数の人が出入りし盛り上がりを見せている。年に1度のお祭りみたいなものだから当然と言えば当然かもね。

「なぁ、アレもしかしてレオハルト家の……」
「ん? 本当だ。彼はレオハルト家の長男であるジーク・レオハルトだ」
「あれ、でも確か彼は洗礼の儀で呪いのスキルを出したとかで一族を追い出されたんじゃなかったか?」
「何を言ってるんだよ馬鹿! お前この間の冒険者ニュース見ていないのか。彼はついこの間EランクからいきなりAランクに上がった実力者らしいぞ! しかも推薦人はあの大賢者イェルメスだ」

 冒険者ギルドに入るになり、僕達には様々な視線や言葉が四方八方から浴びせられた。いや、正確には僕達ではなくて“僕”だな。間違いなく。なんだか思った以上に注目を浴びてしまっている様だが、幸い予想していた最悪なイメージよりも酷くなくて安心した。これもイェルメスさんの名の効果かな……。

「どんな噂が立っているかと正直心配でしたが、やはりジーク様の素晴らしさは分かる人にはちゃんと伝わっている様ですね。少なからず懐疑な視線も感じますが、ルルカさんみたいにいきなり絡んで来る人がいないだけマシですねジーク様」
「ヒャハハ、相変わらず手厳しいんよレベッカちゃんは。あれも今となってはいい思い出だな」

 そんな会話をしながら既に空腹で元気がないミラーナの為に、僕達は早々に料理を注文した。運ばれて来るなりミラーナは勢いよく食べ始め、「美味美味!」と満足そうにあっという間に全てを平らげたのだった。

「ん~! とても美味しかったわ。ご馳走様」
「元気になってくれて良かったよ。おかわりは大丈夫かミラーナ」
「幾ら美味しくても一気にそんなに食べられないわ。でもまぁジークが優勝したらそのお祝いでまた食べに来るのもアリね」

 ミラーナが何気なくそう言った次の瞬間……。

「ハッ、誰が優勝だって? 余りの戯言に自分の耳を疑ったぞ俺は――」

 突如背後から響いた声。
 僕は確かに聞き覚えのあるその声の方向へ無意識に振り返っていた。

「……グレイ」

 そこにいたのは他の誰でもない弟のグレイ。
 見るのは家を出たあの日以来か。
 彼はまるで落ちているゴミでも見るかの様な蔑んだ瞳で僕に視線を飛ばしてくる。

「レオハルト家の面汚しが偉く調子に乗っているじゃねぇか。たかが冒険者レベルでAランクになったからって勘違いするなよ。お前にそんな実力が無い事も卑怯な手を使った事も、俺には全て分かっているからなクソが!」

 グレイは怒号交じりに僕にそう言ってきた。

「ちょっと、何なのよアンタ。急に出てきて偉そうね」
「ふん。三流とは違って本当に偉いレオハルト家の勇者だからな俺は。お前と同じ立場で物を言うな」
「おいグレイ。僕の事は構わないが、ミラーナの事を悪く言うのは許さないぞ」

 僕がグッとグレイを睨むと、それがまた気に入らないのかグレイは舌打ちをしながら悪態をついてくる。

「ちっ、本当にいちいち癇に障る野郎だな。お前のそうやって優等生ぶってるのが昔から気に入らなかったんだよ。せこい冒険者などに落ちやがって。何処まで一族の面を汚せば気が済むんだよ」
「同じ事を言わせるなグレイ。僕の事はどれだけ馬鹿にしようが構わないけど、冒険者の人達まで馬鹿にするんじゃない。冒険者はグレイが思っている以上に勇敢で偉大な存在なんだ」

 レオハルト家や他の貴族達はクラフト村に目も向けなかった。きっと他にも王都から離れた小さな村や町の依頼も無視しているんだろうお前達は。

「ヒャハハ。元とは言えレオハルト家出身のジークの前では少し気が引けるが、アンタら貴族は偉そうに高みの見物してるだけで実際何もしてないんよ。
俺らにとってはそんな貴族よりも目の前の人を救ってるジークの方がよっぽど勇者に相応しいね」
「なんだとッ……! さっきからお前ら誰に物を言ってッ「その通りだ――!」

 次の瞬間、僕達の会話を聞いていた他の冒険者がグレイの言葉を遮った。

「レオハルト家だか勇者スキルだか知らねぇが、黙って聞いてりゃ随分な事言ってくれてるじゃねぇか坊主!」
「そうだぞお坊ちゃんよぉ! お前ん家の事情なんか知らないが、この兄ちゃんが冒険者としてクラフト村を救ったのは本当の事だろう!」
「俺達冒険者がせこい落ちぶれだと? いい加減にしろよお前」

 ギルド内にいた他の冒険者達が矢継ぎ早にグレイに怒号を飛ばす。自分でも思いがけない事態にグレイは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら1歩足を退かせた。

「ぐ、なんだコイツらッ……! 三流共が群れて粋がりやがって。お前達がそんな威圧的な態度を取ろうが、俺は選ばれし勇者だ! その事実は変わらん。お前ら程度じゃどう足掻いても俺には敵わなんだよ!」
「いい加減にしろグレイ。スキルや実力だけが全てじゃない。僕は家を追い出されて冒険者になった事で、そんな当たり前を改めて実感したんだ。お前の求めている強さは本当の強さじゃない」
「黙れ! そんなのは反吐が出る程の綺麗事だな。その強さが存在しないからお前は一族を追放されたんだろうが馬鹿が!」

 全く聞き耳を持たないグレイ。
 まぁこのプライドの高さは今に始まった事じゃないから、相手にするだけこっちが嫌な気持ちになるだけだ。

 グレイをもう無視しようとした瞬間、次に口を開いたのはレベッカだった。

「グレイ様、お言葉ですがジーク様は“強い”ですよ。貴方が思っている以上に。確かにジーク様とグレイ様では求める強さが違うかとは思いますが、貴方にはない強さをジーク様は持っております」

 レベッカ……。

「ふん、負け犬に飼われている使用人の分際が偉そうに。俺はお前の事も昔から気に食わなかったんだよ」
「そうですか。でも私はもうレオハルト家の使用人ではありませんので」
「相変わらず癇に障るな。だがまぁいい。これまでの事も含め、全てはモンスター討伐会で証明してやる。誰が本当に強い勇者であるのかをお前達全員にな。そこで身の程を知るがいい負け犬共! ハッハッハッハッ!」

 グレイは吐き捨てる様にそう言い残すと、そのままギルドを出て行った。