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「いやいやいや~! さあさあ、どんどん食べてどんどん飲んでどんどんお代わりして下さいね、真の勇者ジーク様!」
「「勇者に乾杯――!!」」

 必死の思いで黒魔術を消す事に成功した僕達は、ミラーナの件に続き村を救った勇者御一行として、絶賛凄まじいおもてなしを受けている次第です。はい。

「いやはやジーク様にはもう何と……本当に何とお礼を申し上げ、何度この安い頭を下げれば御恩を返し切れるでしょうか!」
「もうお気持ちは沢山頂いてますから、やめて下さいよ町長さん。皆無事だった。それでいいじゃないですか」
「おお~、流石真の勇者ジーク様! 有り難きお言葉頂戴致します。もう本当に私はもう一生ジーク様の前で頭を上げられません」

 感謝してくれているのはもう嫌と言う程伝わっている。
 最早こんな言い方はアレだが、大袈裟すぎる町長さんに僕は何て返したらいいのか分かりません。

「町長さん、やり過ぎると却ってジークさんに迷惑ですよ」
「いや、まだまだこんなものでは全然足りぬよサラ君。はて、この御恩をどう返したら良いか……」

 町長さんはずっとそんな事を言いながら頭を抱えていると、急に何かを閃いた様に僕の前に勢いよく座ってきた。

「ジーク様! まだご結婚はされていませんよね!」

 唐突過ぎる質問と勢いに圧倒されてしまう。
 それにいつの間にかジーク君から“様”に変わっているんだよな。

「え、ええ。勿論まだですけど……」
「そうでしたか!でしたら是非“サラ君”はどうでしょうか!」
「えッ⁉」
「ちょ、ちょっと町長さん! 何言い出してるんですか⁉」

 まさかの展開に驚いているのは僕だけじゃなくサラさんもだ。そりゃビックリするよ、急にそんな事言われちゃ。

「サラ君は私の可愛い娘同然! 大事な彼女が変な男に捕まるぐらいなら、私はジーク様の様な素晴らしい方と是非結ばれてほしいと思っていた所存です! 余計なお世話でしょうが」

 ごもっともです。

 ……と思わず言い掛けてしまったけど、町長さんには微塵の悪気もないんだよなぁ。それだけ僕に感謝してくれているのは有難いけども。

「ほ、本当ですよ町長さん! そんな事言われたらジークさんが困るじゃないですか!」
「それはそうだがね、サラ君に幸せになってもらいたいと言うのは私の本音。ダメでしょうかジーク様? サラ君はタイプじゃないですか?」

 また何を言い出すんだ町長さんは。

「い、いやッ、ダメなんてとんでもない! 寧ろ僕には勿体ないぐらい綺麗でしっかりされてますよサラさんは! 結婚される方が羨ましい限りです。それにそもそもサラさんが僕なんかを相手にしないですってば」
「おお、そうですか! だとすれば後はサラ君どうかね。ジーク様じゃ不服かな?」
「不服なんて言い方失礼ですよ! ジークさんはもう2度も村を救ってくれている勇者様です。皆を守ろうとする姿はとても強くて格好良くて素敵で、私みたいな女が一緒にいたら逆にジークさんの品位を下げてしまいますから……」

 謙遜しているがサラさんは素直に綺麗な人だ。スタイルも良ければ性格も良い。僕なんかじゃ釣り合わないよ。
 
「だからそんな事ないですって! 逆にサラさんは綺麗過ぎて僕には勿体ないッ――」

 そこまで言いかけた瞬間、場に妙な空気が流れたのを察知した。ふと周りからの刺さる様な視線を感じ、僕は皆の方へ振り返る。
 
 レベッカとミラーナからは殺意のある視線を。
 ルルカからは軽蔑する様な冷たい視線を。
 そしてイェルメスさんからは僕を茶化す様な視線を向けられていた。

 刹那、僕もハッと状況を気付かされる。

 よくよく考えてみればこんな必死でサラさんを褒めていたら、まるで僕がさらさんに好意を抱いているみたいじゃないか……?

 町長さんの勢いにでいつの間にかこんな展開になっていたけど、何なんだこの居心地の悪い空気は。

「成程、よ~く分かりましたよ! つまり、お互いに好意を持っているが、お恥ずかしいという事ですな! ハハハハ。何だ、そういう事だったら早く言ってくれれば良かったのに2人共!」
「いやッ、それはまた違いますって町長さん! ね! そうですよねサラさん!」
「は、はい……。でももしジークさんが本当に宜しければ、私は何時でも――」

 なッ、何ぃぃぃッ⁉
 ここにきてなんだそのサラさんの奥ゆかしい恥じらいは!
 思わず抱きしめたくなって……って、違うだろ僕! 
 
「アーハッハッハッハッ! やはりモテる勇者は大変だなジーク君」

 イェルメスさんの何気ない余計な一言によって、レベッカとミラーナから更に強い殺意を感じ取った。

「ちょっと! 私の王子様と勝手に結婚なんて絶対に許さないわよ!」
「初めて気が合いましたねミラーナさん。私もジーク様にお仕えする身として、その結婚は到底認められません! ジーク様の結婚相手は私が認めた方でなければ断じてさせませんよ!」
「何でなんよ! 命を懸けて村を救ったのは俺だぞ村長! 普通俺にサラちゃんを勧めるだろ」
「ルルカは絶対ダメじゃな。論外」

 もう止めてくれ……。

「私はジークさんと結婚なんて厚かましい事は考えていませんよ。ただジークさんが私に好意を抱いてくれている様なので、私もきちんと向き合いたいと思っているだけです」

 おいおい、サラさん。そんな事を言ったら話がもっとややこしく――。

「あら、何かしらその上から目線の態度は。ジークアンタの事好きだなんて一言も言っていないわよ」
「そうですサラさん。勘違いされては困りますよ」
「確かにまだ好きとは聞いていませんが、今の発言は誰が聞いても“そういう事”だと思いますよ。だから決して勘違いではないと思うけど」
「有り得ない。こうなったら表でやり合うしかない様ね。全員ベヒーモスの力で蹴散らせてあげるわ」
「こらこらこらッ……! 皆そこまで――!」

 こうして、何とかクラフト村を救えたのはいいものの、思わぬ修羅場を引寄せた今日という長い1日は幕を下ろした。

 この後色んな意味でこの場を鎮めるのが大変だったのは言うまでもないだろう――。