「来るぞ!」
驚異的なスピードで俺とフーリンに飛び掛かってきたラグナレク。
俺達はラグナレクが繰り出してきた鉤爪の攻撃を何とか躱し、そのまま僅かに生まれたラグナレクの隙を突いて剣を振った。更に全く同じ行動を取っていたフーリンも奴に槍を突き刺した。
「はッ!」
俺とフーリンの攻撃は見事奴に直撃。
俺は奴の腕を片方斬り落とし、フーリンは腹部辺りを槍で貫いていた。その衝撃で奴の気持ち悪いベチャっとした肉の塊が勢いよく飛び散って地面に落ちた。
流石フーリン。やっぱコイツは強い。2人がかりでこのまま押せばッ……「――危ないフーリンッ!」
そんな思いが頭を過ったのも束の間。
次の瞬間、俺が斬り落とした筈の腕の断面から再び奴は腕を生やし、その勢いのまま今度は鋭い鉤爪をフーリンに振りかざした。
「ぐッ……⁉」
「フーリン!」
間一髪反応していたフーリンはギリギリのところで身を躱した。だがラグナレクの鉤爪は僅かにフーリンを掠めており、凄まじい風切り音と共に数滴の血飛沫が飛んだ。
「おい、大丈夫か!」
「ああ……少し掠っただけだ。問題ない」
フーリンの無事を確かめたほんの一瞬。たった一瞬にも関わらず、既にラグナレクは次の攻撃モーションに入っていた。
しかも次に繰り出されるであろう攻撃はさっきのあの咆哮――。
この近距離でまさかと思ったが、大きく口を開く奴の姿と俺達を照らす神々しい青白い光が視界に映っていた。
ヤバッ……!
「――“ディフェンション”!」
ラグナレクの咆哮が放たれる刹那、エミリアによって俺とフーリンの前に1枚の防御壁が出現した。
奴の咆哮は再び周囲の岩や大地を抉る一撃だったが、俺達はエミリアの防御壁で何とか事なきを得た。直撃していたら跡形も無く消滅しているだろう……。
「2人共大丈夫⁉」
「おー、マジで助かったぞエミリア。ありがと!」
「恩に着る」
「それにしても、とんでもなく危ないなアイツ……」
「ああ。今の咆哮も厄介だが普通の攻撃も当たれば一溜りもない。あの再生能力もな」
「となると狙いはやっぱ頭しかないか」
Cランクの双剣があって良かった。思わず力込めて振ったから一瞬焦ったけど大丈夫だったみたい。でもまぁ持って3回……×4本で計12回……最初に奴の攻撃を防いだ分と今の腕を斬ったので-2だから、こっちの剣は多分次で壊れそうだな。
「フーリン後何回攻撃出来る?」
「槍が全部で5本だから、7割程度の攻撃なら15~20回だろう。だが奴相手では全力を出さねばならんから5回だな。全力の攻撃は1突きで1本壊れる。
さっきは態勢が悪くて十分な力を込められなかったからまだコレは無事だが」
フーリンはそう言いながら手にしていた槍を見せてきた。
俺達呪われた世代の弱点はこの攻撃回数にどうしても制限がある事。エミリアの防御壁でさえ木の杖を消耗してしまう。まぁそんな事今更だけどな。
今回は少し頭も“他の奴”も使わないと――。
「リリアン! 暇ならお前も手伝え。ドミナトルの装填が終わるのは後どれぐらいだ?」
「まだもう少しね。まさか、呪われた世代に私も入れる気?」
「当たり前だ。こっちはその呪われた力とやらのハンデがあるんだからな。使える物は全部使うさ」
俺達が悩んでいる事情などお構いないしに、ラグナレクは再び攻撃態勢に入っていた。少し距離を取っていた俺達に対し、奴は距離を詰める事無くまたも厄介な青白い輝き口に蓄えている。
そして次の瞬間、まるで待ったなしと言わんばかりに強烈な咆哮を放ってきた。
「王2級魔法……“拒絶の壁”!」
ラグナレクの咆哮に対し、突如リリアンの王2級魔法の防御壁が繰り出された。
彼女の発動した防御壁は10枚重ねの超強力な防御壁。強い光を発しながら出現したその防御壁は直後ラグナレクの咆哮と衝突し、バリンバリンとガラスが砕かれるかの如く次々に破壊されていく。
そして最後の10枚目が砕け散ると共に、ラグナレクの咆哮も消え去ったのだった。
「――これで分かったでしょ?
私の王2級魔法でもラグナレクの攻撃を1回防ぐのが精一杯なのよ。若い貴方達のお誘いは嬉しいけど、残念ながら大した戦力にならないわ」
俺は自分の目を疑った。
確かに魔法には詳しくないが、彼女が使った王2級魔法がどれ程強力なものかは俺にも分かる。結構な魔力だったからな。素人目に見ても今のリリアンの魔法は余裕で“エミリアを上回っている”――。
普通に考えたら有り得ない。やはりエミリアの魔法が何か特殊なんだろうか。
「ちょっと待て。エミリアの前で言うのも申し訳ないけど、お前の魔法の方が数段エミリアより上だろう? 何でこうなる」
「それは私が聞きたいぐらいよ。ハッキリ言って意味不明だわ。そんな木の杖で出した超普通の3級魔法でどうやってラグナレクの攻撃を防いだの?
……まぁ兎も角、私も立場上自分の団員達を守らないといけない。だから貴方達は貴方達だけでどうにか時間稼ぎして頂戴。ドミナトルの発動までね――」
リリアンはそう言うと、団員達を守るべくそそくさと行ってしまった。
「マジかよアイツ、なんて自己中なんだ。いきなり当てが外れた」
「仕方ないわよグリム。リリアン様だって団長としての務めがあるんだから」
確かにそうだけどさ、俺だってどうにかこの状況を切り抜けようと珍しく頭使ってるんですよ。
「因みにエミリアは後何回防御壁出せる?」
俺とフーリンの攻撃は合わせて後15回前後。しかも2対1とは言えあのラグナレクの攻撃にはエミリアの防御壁が不可欠。
「多分10回も使えないと思う」
「成程。想定よりかなり厳しい状況だな。即死じゃなければ最悪ハクに回復してもらえたとしても、こっちがいずれ戦えなくなる」
「武器が尽きる前に倒せばいい」
「それが出来れば勿論いいけど、ぶっちゃけかなりキツイぞ。お前ももう分かってるだろフーリン。奴相手に渾身の一撃を決めたとしても、確実に倒せるか定かじゃない。その前にやられる可能性だってあるんだ」
石碑のラグナレクより更に格上のコイツを仕留めるのは至難の技。ドミナトルの装填前に武器が全て壊れたら間違いなく俺達は死ぬ。
残された回数で奴を仕留めるかドミナトル発動まで時間を稼ぐか……。どちらもハイリスクだが、もう1つ方法がない事もない――。
「どうする? もう逃げても誰も文句言わないと思うけど」
そう。最後の手段はこの場を去る事。だがこれでは当然ハクの情報も手に入れる事が出来なくなる。どの道死んだら元も子もないけど。
「今更それは出来ないわよグリム」
「右に同じだ。強者から逃げるなど言語道断」
「バウワウ!」
勿論俺は本気で言った訳じゃない。
だがこんな状況でも立ち向かおうとしているエミリア、フーリン、ハクの、その真っ直ぐな瞳を見た俺は何故だか少し嬉しかった。
「ハハハ。そっか。まぁ俺も本気で言った訳じゃないけど、今のを聞いて一先ず安心したよ。仕方ないから呪われた世代同士仲良く奴と戦う事にしようか」
今更引き戻れない。
それにここで引いたら一生、知りたい真相に辿り着けない気がする。根拠はないがそんな気がするんだ。
「変わらず俺とフーリンで奴を仕留めにかかる。だからまたヤバい時はエミリアがフォローしてくれ。ハクはエミリアの近くにな。
……行くぞ!」
俺達は力を合わせ、再びラグナレクと正面から対峙する道を選んだ。
剣と槍を手にし、突っ込んでいく俺とフーリンに気が付いたラグナレクは大きな雄叫びを上げながらまた戦闘態勢に入った。
奴もやる気満々だ――。
驚異的なスピードで俺とフーリンに飛び掛かってきたラグナレク。
俺達はラグナレクが繰り出してきた鉤爪の攻撃を何とか躱し、そのまま僅かに生まれたラグナレクの隙を突いて剣を振った。更に全く同じ行動を取っていたフーリンも奴に槍を突き刺した。
「はッ!」
俺とフーリンの攻撃は見事奴に直撃。
俺は奴の腕を片方斬り落とし、フーリンは腹部辺りを槍で貫いていた。その衝撃で奴の気持ち悪いベチャっとした肉の塊が勢いよく飛び散って地面に落ちた。
流石フーリン。やっぱコイツは強い。2人がかりでこのまま押せばッ……「――危ないフーリンッ!」
そんな思いが頭を過ったのも束の間。
次の瞬間、俺が斬り落とした筈の腕の断面から再び奴は腕を生やし、その勢いのまま今度は鋭い鉤爪をフーリンに振りかざした。
「ぐッ……⁉」
「フーリン!」
間一髪反応していたフーリンはギリギリのところで身を躱した。だがラグナレクの鉤爪は僅かにフーリンを掠めており、凄まじい風切り音と共に数滴の血飛沫が飛んだ。
「おい、大丈夫か!」
「ああ……少し掠っただけだ。問題ない」
フーリンの無事を確かめたほんの一瞬。たった一瞬にも関わらず、既にラグナレクは次の攻撃モーションに入っていた。
しかも次に繰り出されるであろう攻撃はさっきのあの咆哮――。
この近距離でまさかと思ったが、大きく口を開く奴の姿と俺達を照らす神々しい青白い光が視界に映っていた。
ヤバッ……!
「――“ディフェンション”!」
ラグナレクの咆哮が放たれる刹那、エミリアによって俺とフーリンの前に1枚の防御壁が出現した。
奴の咆哮は再び周囲の岩や大地を抉る一撃だったが、俺達はエミリアの防御壁で何とか事なきを得た。直撃していたら跡形も無く消滅しているだろう……。
「2人共大丈夫⁉」
「おー、マジで助かったぞエミリア。ありがと!」
「恩に着る」
「それにしても、とんでもなく危ないなアイツ……」
「ああ。今の咆哮も厄介だが普通の攻撃も当たれば一溜りもない。あの再生能力もな」
「となると狙いはやっぱ頭しかないか」
Cランクの双剣があって良かった。思わず力込めて振ったから一瞬焦ったけど大丈夫だったみたい。でもまぁ持って3回……×4本で計12回……最初に奴の攻撃を防いだ分と今の腕を斬ったので-2だから、こっちの剣は多分次で壊れそうだな。
「フーリン後何回攻撃出来る?」
「槍が全部で5本だから、7割程度の攻撃なら15~20回だろう。だが奴相手では全力を出さねばならんから5回だな。全力の攻撃は1突きで1本壊れる。
さっきは態勢が悪くて十分な力を込められなかったからまだコレは無事だが」
フーリンはそう言いながら手にしていた槍を見せてきた。
俺達呪われた世代の弱点はこの攻撃回数にどうしても制限がある事。エミリアの防御壁でさえ木の杖を消耗してしまう。まぁそんな事今更だけどな。
今回は少し頭も“他の奴”も使わないと――。
「リリアン! 暇ならお前も手伝え。ドミナトルの装填が終わるのは後どれぐらいだ?」
「まだもう少しね。まさか、呪われた世代に私も入れる気?」
「当たり前だ。こっちはその呪われた力とやらのハンデがあるんだからな。使える物は全部使うさ」
俺達が悩んでいる事情などお構いないしに、ラグナレクは再び攻撃態勢に入っていた。少し距離を取っていた俺達に対し、奴は距離を詰める事無くまたも厄介な青白い輝き口に蓄えている。
そして次の瞬間、まるで待ったなしと言わんばかりに強烈な咆哮を放ってきた。
「王2級魔法……“拒絶の壁”!」
ラグナレクの咆哮に対し、突如リリアンの王2級魔法の防御壁が繰り出された。
彼女の発動した防御壁は10枚重ねの超強力な防御壁。強い光を発しながら出現したその防御壁は直後ラグナレクの咆哮と衝突し、バリンバリンとガラスが砕かれるかの如く次々に破壊されていく。
そして最後の10枚目が砕け散ると共に、ラグナレクの咆哮も消え去ったのだった。
「――これで分かったでしょ?
私の王2級魔法でもラグナレクの攻撃を1回防ぐのが精一杯なのよ。若い貴方達のお誘いは嬉しいけど、残念ながら大した戦力にならないわ」
俺は自分の目を疑った。
確かに魔法には詳しくないが、彼女が使った王2級魔法がどれ程強力なものかは俺にも分かる。結構な魔力だったからな。素人目に見ても今のリリアンの魔法は余裕で“エミリアを上回っている”――。
普通に考えたら有り得ない。やはりエミリアの魔法が何か特殊なんだろうか。
「ちょっと待て。エミリアの前で言うのも申し訳ないけど、お前の魔法の方が数段エミリアより上だろう? 何でこうなる」
「それは私が聞きたいぐらいよ。ハッキリ言って意味不明だわ。そんな木の杖で出した超普通の3級魔法でどうやってラグナレクの攻撃を防いだの?
……まぁ兎も角、私も立場上自分の団員達を守らないといけない。だから貴方達は貴方達だけでどうにか時間稼ぎして頂戴。ドミナトルの発動までね――」
リリアンはそう言うと、団員達を守るべくそそくさと行ってしまった。
「マジかよアイツ、なんて自己中なんだ。いきなり当てが外れた」
「仕方ないわよグリム。リリアン様だって団長としての務めがあるんだから」
確かにそうだけどさ、俺だってどうにかこの状況を切り抜けようと珍しく頭使ってるんですよ。
「因みにエミリアは後何回防御壁出せる?」
俺とフーリンの攻撃は合わせて後15回前後。しかも2対1とは言えあのラグナレクの攻撃にはエミリアの防御壁が不可欠。
「多分10回も使えないと思う」
「成程。想定よりかなり厳しい状況だな。即死じゃなければ最悪ハクに回復してもらえたとしても、こっちがいずれ戦えなくなる」
「武器が尽きる前に倒せばいい」
「それが出来れば勿論いいけど、ぶっちゃけかなりキツイぞ。お前ももう分かってるだろフーリン。奴相手に渾身の一撃を決めたとしても、確実に倒せるか定かじゃない。その前にやられる可能性だってあるんだ」
石碑のラグナレクより更に格上のコイツを仕留めるのは至難の技。ドミナトルの装填前に武器が全て壊れたら間違いなく俺達は死ぬ。
残された回数で奴を仕留めるかドミナトル発動まで時間を稼ぐか……。どちらもハイリスクだが、もう1つ方法がない事もない――。
「どうする? もう逃げても誰も文句言わないと思うけど」
そう。最後の手段はこの場を去る事。だがこれでは当然ハクの情報も手に入れる事が出来なくなる。どの道死んだら元も子もないけど。
「今更それは出来ないわよグリム」
「右に同じだ。強者から逃げるなど言語道断」
「バウワウ!」
勿論俺は本気で言った訳じゃない。
だがこんな状況でも立ち向かおうとしているエミリア、フーリン、ハクの、その真っ直ぐな瞳を見た俺は何故だか少し嬉しかった。
「ハハハ。そっか。まぁ俺も本気で言った訳じゃないけど、今のを聞いて一先ず安心したよ。仕方ないから呪われた世代同士仲良く奴と戦う事にしようか」
今更引き戻れない。
それにここで引いたら一生、知りたい真相に辿り着けない気がする。根拠はないがそんな気がするんだ。
「変わらず俺とフーリンで奴を仕留めにかかる。だからまたヤバい時はエミリアがフォローしてくれ。ハクはエミリアの近くにな。
……行くぞ!」
俺達は力を合わせ、再びラグナレクと正面から対峙する道を選んだ。
剣と槍を手にし、突っ込んでいく俺とフーリンに気が付いたラグナレクは大きな雄叫びを上げながらまた戦闘態勢に入った。
奴もやる気満々だ――。