♢♦♢
~都市フィンスター~
「昔と比べて随分と雰囲気が変わったな……」
ラドット渓谷の関所を抜け、遂に目的地であるフィンスターに着いた俺達。まだレオハート家にいた頃に何度か王都の隣であるこのフィンスターに訪れた事があったが、この都市は元々海に面している事もあり多くの貿易関係者や商人が日々行きかうとても活気のある都市であった。
だが今俺の目の前に映っている光景は、そんな煌びやかな都市フィンスターの面影が少しも残っていない混沌とした街並み。本来であれば大勢の人で賑わっており、道を慌ただしく通る馬車には様々な食料や商品の数々が積まれ運ばれている筈なのだが、俺達の横を通っていく馬車の荷台には武器や防具ばかりが積まれていた。
豊かな雰囲気に包まれた綺麗な街並みも今では多くの建物が壊れて崩れ落ち、至る所が大量の瓦礫で埋め尽くされてしまっている。騎士魔法団の者達が忙しなく動き回っているのとは反対に、疎らに歩いている街の人達は皆下を向き憔悴した表情だ。
「まさかあのフィンスターがここまで被害を受けているなんて……」
「今はノーバディのせいで都市全体が重苦しい雰囲気に包まれています。少し前まではまだ大丈夫だったのですが、頭部のある上位クラスのノーバディの出現によって瞬く間に都市フィンスターが惨劇と化したのです」
ユリマさんの言葉もそうだが、ノーバディの被害が甚大である事は誰が見ても一目瞭然だ。
「ユリマさん。問題のそのノーバディとやらはどこにいるんですか?」
「此処からそう遠くはない場所だそうです。私は主に冒険者を集める事を担当しており、実際に前線に赴いているのは騎士団や集めた冒険者の方々です。
ですので、これからの詳しい事は全て“ルートヘルム家”からお聞き下さい。既に大勢の冒険者が集まっている事でしょう。今からグリムさん達もその大聖堂へとお送り致しますので」
「そうなんですね。分かりました。因みに、まだ少し時間はありますか?もし大丈夫なら何処かで武器を調達出来ませんかね?」
先のラドット渓谷の一連で早くも剣が壊れてしまった。町長さん達からもう2組の双剣を貰ったからまだ1組あるけど、相手が強いノーバディと分かっているなら予備を持っていて損はない。ただでさえ双剣のスキルを持つ人は数が少ないとエミリアが言っていたから、必ずしも此処で手に入れられるとも限らない。
「俺も今回ばかりは久々に多く槍を持っていたい。強者が大勢いると言うならば尚更な」
「実は私も……。多分あと2、3回使ったらもう壊れそうだから新しい木の杖に変えておきたいの」
これも呪われた世代と呼ばれる所以だろうか……。奇しくも3人共武器や能力に制限があるのが欠点。最弱ランクの武器しか使えないエミリアもフーリンもどうしても武器の消耗が早くなってしまう。特に俺とフーリンは尚更だ。
「勿論大丈夫ですよ。そうしましたら大聖堂に向かう前に武器屋に寄っていきましょう。幸いな事に今フィンスターには武器や防具が1番多く集まっているでしょうから」
ユリマさんはそう言って、近くの武器屋に寄ってくれた。
~武器屋~
「――いらっしゃい。何が必要かな?」
武器屋に入ると、店の主人であろうおじさんが声を掛けてきた。ユリマさんの言っていた通り、今はノーバディの影響のせいか確かに置いてある武器の量が多かった。しかもこの武器屋に来るまでの少しの道中、開いている店は武器屋しかなかった。フィンスターで起きている異常さが嫌でも伺える。
「すみませんおじさん。双剣ってありますか?」
「俺は土の槍を」
「私は木の杖をお願いします!」
「はいはい、双剣に槍に杖ね……。土の槍と木の杖なんてそんな1番下の弱い武器でいいのかい? どちらも最弱のFランクだよ?
一応他にもランクの高い物があるし、街は今こんなだからね……普通よりも大分安くしてあげられるよ。何もいい事ではないけどね。ハハハハ」
おじさんの空笑いがとても辛く思えてしまった。そりゃそうだよな……。
「いや、結構だ。土の槍しか使えないんでな」
「私も同じです。本当ならもっといい杖使ってみたいですけど」
「そうなのかい? それじゃあ仕方がないね。一応どちらもあるにはあるけど滅多に出ないから……お、あったあった。土の槍は2本、木の杖は1つしかないけど、コレで大丈夫かな?」
おじさんは大量にある武器の中から木の杖と土の槍を探し出し、エミリアとフーリンにそれぞれ渡した。
「ありがとうございます」
「おじさん、俺の双剣はある?」
「ああ、君は双剣だったね。双剣は元々使う人が少ないけど、ちゃんとあるよ。ほら……生憎この2組しかないけど」
そう言って、店主のおじさんは2組の双剣を俺に見せてくれた。
1つは最弱のFランクである木剣。そしてもう1つはラッキーな事にCランクの双剣。町長さんに貰ったEランク方は壊れたが、これと合わせればCランクが2組。上出来だ。
「ありがとうございます。そうしたらこっちの双剣を買わせて頂きます」
「毎度!」
「ねぇグリム、どうせならもう1組買っておいたらどう? Fランクだから直ぐ壊れると思うけど、1~2回使えるなら無いよりいいんじゃない?」
「あ~、それは確かにそうなんだけどな……。実はまだスキルが覚醒したばかりの頃にさ、俺も辺境の森でかき集めた双剣を5組ぐらい常に装備していたんだけど、なにせ片側に5本ずつだから対になるのをいちいち確かめないといけなくて、手間取ってる間に1度モンスターにやられそうになった事があるんだ。
だからそれ以来、持っても2組までにしようって決めたんだよね。それ以上は万が一の時に瞬時に対応出来なくなるから」
「そういう事だったのね」
「確かに、俺みたいにただストックを用意しておくだけとはまた少し異なるな」
「ああ。だから俺も本当だったらフーリンみたいに束ねて持ちたいんだけど、両方握らないと力が発揮されないからな。ややこしいんだよこの双剣」
俺の不便な双剣事情を話すと、エミリアもフーリンも腑に落ちた様に納得していた。そして、何とか武器を手に入れる事が出来た俺達は皆が集まっていると言う大聖堂へと向かった。
♢♦♢
~都市フィンスター・大聖堂~
「――皆さん着きましたよ。ここが大聖堂です」
武器屋から馬車に乗る事十数分。俺達の目の前には何百人という人が簡単に入る大きな大聖堂が建っていた。壊れている建物が多かったが、この大聖堂は奇跡的に大丈夫なようだ。大聖堂の周りも壊れている建物が多いからか余計にこの大聖堂が神秘的にさえ見えてしまう。
「中にはもう多くの者達が集まっているでしょう。ノーバディの討伐については今から詳しい話がありますので、そちらの指示に従って頂ければと思います。
私はまた他の冒険者を探しに行きますので、名残惜しいですが皆さんとはここでお別れです」
「そうですか……。ユリマさん、本当にありがとうございました。あそこでユリマさんと出会っていなければ、俺達は到底ここまで辿り着けませんでした」
「いえいえ、お互い様です。こちらこそ約束を守って頂きありがとうございます。
グリムさん、エミリアさん、フーリンさん、そしてハクさんも……皆さんの無事を祈ると共に、貴方達のその強さでフィンスターが救われる事を、心より期待しております――」
ユリマさんはそう言い、また馬車を走らせこの場を去って行った。
「さあ、俺達も中に行こう」
「バウ!」
「そうだね」
「何やら強者の気配を感じるな」
別れを済ませた俺達も早速大聖堂の中へ足を進めた。すると、中には冒険者と見られる者達が大勢集っていた。俺達が中へと入るや否や丁度誰かの話が始まった。
~都市フィンスター~
「昔と比べて随分と雰囲気が変わったな……」
ラドット渓谷の関所を抜け、遂に目的地であるフィンスターに着いた俺達。まだレオハート家にいた頃に何度か王都の隣であるこのフィンスターに訪れた事があったが、この都市は元々海に面している事もあり多くの貿易関係者や商人が日々行きかうとても活気のある都市であった。
だが今俺の目の前に映っている光景は、そんな煌びやかな都市フィンスターの面影が少しも残っていない混沌とした街並み。本来であれば大勢の人で賑わっており、道を慌ただしく通る馬車には様々な食料や商品の数々が積まれ運ばれている筈なのだが、俺達の横を通っていく馬車の荷台には武器や防具ばかりが積まれていた。
豊かな雰囲気に包まれた綺麗な街並みも今では多くの建物が壊れて崩れ落ち、至る所が大量の瓦礫で埋め尽くされてしまっている。騎士魔法団の者達が忙しなく動き回っているのとは反対に、疎らに歩いている街の人達は皆下を向き憔悴した表情だ。
「まさかあのフィンスターがここまで被害を受けているなんて……」
「今はノーバディのせいで都市全体が重苦しい雰囲気に包まれています。少し前まではまだ大丈夫だったのですが、頭部のある上位クラスのノーバディの出現によって瞬く間に都市フィンスターが惨劇と化したのです」
ユリマさんの言葉もそうだが、ノーバディの被害が甚大である事は誰が見ても一目瞭然だ。
「ユリマさん。問題のそのノーバディとやらはどこにいるんですか?」
「此処からそう遠くはない場所だそうです。私は主に冒険者を集める事を担当しており、実際に前線に赴いているのは騎士団や集めた冒険者の方々です。
ですので、これからの詳しい事は全て“ルートヘルム家”からお聞き下さい。既に大勢の冒険者が集まっている事でしょう。今からグリムさん達もその大聖堂へとお送り致しますので」
「そうなんですね。分かりました。因みに、まだ少し時間はありますか?もし大丈夫なら何処かで武器を調達出来ませんかね?」
先のラドット渓谷の一連で早くも剣が壊れてしまった。町長さん達からもう2組の双剣を貰ったからまだ1組あるけど、相手が強いノーバディと分かっているなら予備を持っていて損はない。ただでさえ双剣のスキルを持つ人は数が少ないとエミリアが言っていたから、必ずしも此処で手に入れられるとも限らない。
「俺も今回ばかりは久々に多く槍を持っていたい。強者が大勢いると言うならば尚更な」
「実は私も……。多分あと2、3回使ったらもう壊れそうだから新しい木の杖に変えておきたいの」
これも呪われた世代と呼ばれる所以だろうか……。奇しくも3人共武器や能力に制限があるのが欠点。最弱ランクの武器しか使えないエミリアもフーリンもどうしても武器の消耗が早くなってしまう。特に俺とフーリンは尚更だ。
「勿論大丈夫ですよ。そうしましたら大聖堂に向かう前に武器屋に寄っていきましょう。幸いな事に今フィンスターには武器や防具が1番多く集まっているでしょうから」
ユリマさんはそう言って、近くの武器屋に寄ってくれた。
~武器屋~
「――いらっしゃい。何が必要かな?」
武器屋に入ると、店の主人であろうおじさんが声を掛けてきた。ユリマさんの言っていた通り、今はノーバディの影響のせいか確かに置いてある武器の量が多かった。しかもこの武器屋に来るまでの少しの道中、開いている店は武器屋しかなかった。フィンスターで起きている異常さが嫌でも伺える。
「すみませんおじさん。双剣ってありますか?」
「俺は土の槍を」
「私は木の杖をお願いします!」
「はいはい、双剣に槍に杖ね……。土の槍と木の杖なんてそんな1番下の弱い武器でいいのかい? どちらも最弱のFランクだよ?
一応他にもランクの高い物があるし、街は今こんなだからね……普通よりも大分安くしてあげられるよ。何もいい事ではないけどね。ハハハハ」
おじさんの空笑いがとても辛く思えてしまった。そりゃそうだよな……。
「いや、結構だ。土の槍しか使えないんでな」
「私も同じです。本当ならもっといい杖使ってみたいですけど」
「そうなのかい? それじゃあ仕方がないね。一応どちらもあるにはあるけど滅多に出ないから……お、あったあった。土の槍は2本、木の杖は1つしかないけど、コレで大丈夫かな?」
おじさんは大量にある武器の中から木の杖と土の槍を探し出し、エミリアとフーリンにそれぞれ渡した。
「ありがとうございます」
「おじさん、俺の双剣はある?」
「ああ、君は双剣だったね。双剣は元々使う人が少ないけど、ちゃんとあるよ。ほら……生憎この2組しかないけど」
そう言って、店主のおじさんは2組の双剣を俺に見せてくれた。
1つは最弱のFランクである木剣。そしてもう1つはラッキーな事にCランクの双剣。町長さんに貰ったEランク方は壊れたが、これと合わせればCランクが2組。上出来だ。
「ありがとうございます。そうしたらこっちの双剣を買わせて頂きます」
「毎度!」
「ねぇグリム、どうせならもう1組買っておいたらどう? Fランクだから直ぐ壊れると思うけど、1~2回使えるなら無いよりいいんじゃない?」
「あ~、それは確かにそうなんだけどな……。実はまだスキルが覚醒したばかりの頃にさ、俺も辺境の森でかき集めた双剣を5組ぐらい常に装備していたんだけど、なにせ片側に5本ずつだから対になるのをいちいち確かめないといけなくて、手間取ってる間に1度モンスターにやられそうになった事があるんだ。
だからそれ以来、持っても2組までにしようって決めたんだよね。それ以上は万が一の時に瞬時に対応出来なくなるから」
「そういう事だったのね」
「確かに、俺みたいにただストックを用意しておくだけとはまた少し異なるな」
「ああ。だから俺も本当だったらフーリンみたいに束ねて持ちたいんだけど、両方握らないと力が発揮されないからな。ややこしいんだよこの双剣」
俺の不便な双剣事情を話すと、エミリアもフーリンも腑に落ちた様に納得していた。そして、何とか武器を手に入れる事が出来た俺達は皆が集まっていると言う大聖堂へと向かった。
♢♦♢
~都市フィンスター・大聖堂~
「――皆さん着きましたよ。ここが大聖堂です」
武器屋から馬車に乗る事十数分。俺達の目の前には何百人という人が簡単に入る大きな大聖堂が建っていた。壊れている建物が多かったが、この大聖堂は奇跡的に大丈夫なようだ。大聖堂の周りも壊れている建物が多いからか余計にこの大聖堂が神秘的にさえ見えてしまう。
「中にはもう多くの者達が集まっているでしょう。ノーバディの討伐については今から詳しい話がありますので、そちらの指示に従って頂ければと思います。
私はまた他の冒険者を探しに行きますので、名残惜しいですが皆さんとはここでお別れです」
「そうですか……。ユリマさん、本当にありがとうございました。あそこでユリマさんと出会っていなければ、俺達は到底ここまで辿り着けませんでした」
「いえいえ、お互い様です。こちらこそ約束を守って頂きありがとうございます。
グリムさん、エミリアさん、フーリンさん、そしてハクさんも……皆さんの無事を祈ると共に、貴方達のその強さでフィンスターが救われる事を、心より期待しております――」
ユリマさんはそう言い、また馬車を走らせこの場を去って行った。
「さあ、俺達も中に行こう」
「バウ!」
「そうだね」
「何やら強者の気配を感じるな」
別れを済ませた俺達も早速大聖堂の中へ足を進めた。すると、中には冒険者と見られる者達が大勢集っていた。俺達が中へと入るや否や丁度誰かの話が始まった。