「噓だろ……」
「凄い、もう全然痛くない。 それに血も止まって傷まで塞がってます!」
「バウ!」
「おいおい、これお前の力なのかハク」
エミリアは勿論俺も驚いた。まさかハクにこんな回復能力があるなんて全く知らなかった。怪我を治してもらったエミリアはハクに抱きついて「ありがとう!」と何度も言っている。ハクも嬉しいのか尻尾をぶんぶん振ってみせた。
「なんだよハク、そんな事出来るなら森で自分の傷を治せば良かったじゃないか」
「バウバウ」
俺がそう言うと、ハクは首を横に振った。どうやら自分には出来ないらしい。
「そうなのか。まぁお前のお陰で助かったよハク。後はもう洞窟から出るだけだな」
「グリムさんもハクさんも本当にありがとうございます。ですが……一体どうやってここから出るのでしょう? 私達が通って来た唯一の道は塞がれてしまっていますし……」
「大丈夫だよ。道なんて幾らでも作れる。それにあの程度の防御壁なんて簡単に壊せるが、あっちは“ハズレ”だ――」
「え?」
そう。
魔法団の多くの足音が響いているあっちの道には、ノーバディの地面を這う音が大量に聞こえている。それに俺はさっきそこを通って来たが、あちこち崩れ落ちているせいで道が塞がっていた。
「なんか全員で魔法撃ちまくってなかった?」
「は、はい。さっきのノーバディを倒す為に一斉攻撃を……。その後もエンビア様の援護でもう1回一斉攻撃をしていました」
「やっぱりな。この洞窟ただでえ穴だらけだから崩れやすくなっているんだろうな。そこへその一斉攻撃とやらの衝撃が加わったせいで凄い崩れてたぞ。
しかもそれだけ魔法使ったとなると、もうアイツらはノーバディの残党と戦う力残ってないだろなぁ」
「そうなんですね……」
俺とエミリアがそんな会話をしていると、洞窟内の遠くから悲鳴が聞こえてきた。魔法団の奴らがノーバディの残党と遭遇したのだろう。
最初の数秒こそ勢いよく魔法が放たれている音がしたが、それも直ぐに消え去りどんどん声も無くなっていった。そして、最後に一際大きな女性の叫び声が響き、洞窟内は静かになった。
仕方がない。これが奴らの運命だった。それだけの事だ。
今の一部始終が聞こえていたのは勿論俺だけ――。
「エミリアを置き去りにしなかったら、また違う運命だったかもしれないのにな」
「ワウ」
「よし。じゃあ俺達も急いで出るぞ。こっちだ」
「あ、待って下さい!」
「俺が道を作るからそのまま付いて来てくれ。ただ足場が悪いから気を付けろよ」
エミリアにそう告げ、俺は剣で壁を破壊した。ここに来るまでの道中とノーバディとの戦いでそろそろ剣が限界。もって後2~3振りだな。それまでに地上に出ないと生き埋めだ。
「す、凄いですねグリムさん。この穴と言いさっきのノーバディと言い……強過ぎます」
「そうか?」
「はい! 絶対強過ぎますよ! どこの騎士団の方ですか?」
「いや、俺は騎士団じゃない」
「え、そうなんですか。あ、じゃあ剣を使っていますが魔法なんですねそれ! どこの魔法団ですか?」
「いや、魔法団でもない」
「じゃあフリーの冒険者なんですね!」
「いや、冒険者でもない」
「え……?」
普通であれば彼女の反応が自然だろう。勿論どこにも属さない一般の人もいるが、そもそもそんな普通の人がこんな場所にいるのは絶対に可笑しいからね。
「う~ん、ちょっと色々事情があるんだけど、エミリアはレオハート家って名前は知ってる?」
「え、はい勿論です。レオハート家は王国で1番有名な剣聖の名家です。逆にリューティス王国で知らない人なんていないですよ」
「まぁそうだよな。俺さ、実はそのレオハート家の人間だったんだよ。名前はグリム・レオハート」
俺がフルネームを出すと、エミリアは目を見開いて明らかに驚いている様子だった。
「え⁉ あ、貴方が“あの”グリム・レオハートさんだったんですか⁉」
彼女がそんなに驚く事も気になったが、それ以上に俺は“あの”という言い方が気になってしまった。
「えっと……何をそんなに驚いているんだ? しかも“あの”ってどういう意味?」
「あ、いえ、すみません……! 実はもう何年も前に1度、スキルが覚醒しないと言う理由だけでグリム・レオハートという方が辺境の森に飛ばされたと、風の噂で聞いた事がありまして……まさかその方が本当に実在してるとは――」
成程。
彼女が急に苦虫を嚙み潰した様に歯切れが悪くなったのも頷ける。俺が辺境の森に追放されてからもうかれこれ8年は経っているが、まさか王国内でそんな噂が広まっていたとは……。まぁしょうがないか。一応有名なレオハート家であって父さんの息子だったんだから。
エミリアは急にハッとした表情をして、俺なんかを気遣ってくれたのか慌てた様子で謝ってくれた。
「あ、あの、すみませんッ! 私失礼な事を……」
「ハハハ。別に大丈夫だよ。それにその噂本当だし。正真正銘、俺が辺境の森に追放されたグリム・レオハートです」
「そんな……」
まだ信じ難いのか、エミリアはその青い大きな瞳をパチパチさせながら俺を見て固まっていた。彼女からすれば死人でも見ているかの様な気分だろうな。王国で噂になったレオハート家の恥さらしがのうのうと生き残っていたんだから。そりゃ当然そういう反応にッ……「――とても嬉しいです!」
ん?
「実は私、ずっと貴方にお会いしてみたかったんです!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
エミリアは急にパッと明るい表情を浮かべながら興奮気味にそう言ってきた。
「え、どういう事……?」
「まさか私なんかを何度も助けてくれた命の恩人が…、あの噂のグリム・レオハートさんだったなんて! 私とても感激しています!」
俺の質問の答えとなっていないエミリアは、そう言いながらグッと俺に近付き勢いよく手まで握ってきた。意味不明。
「あの! 急に失礼かと思いますが、宜しければ私を“仲間”にしてくれないでしょうか! どうかお願いします! まさか“呪われた世代の1人”にお会い出来るなんて……! それに私、どうしてもグリムさんの様に強くなりたいんですッ!」
理解不能の展開は更なる予想外なところに着地した。
本当に急過ぎるし色々ツッコミたい所だらけ。いつの間にこうなった? 突然噂を暴露され感激され仲間にしてくれと志願されている挙句に再び気になるワードが出てきた。
呪われた世代って何だ……?
うん。シンプルに困った――。
「あ、あのさ、一先ず落ち着いてくれるか? 兎に角今はここから急いで出る。そして今の話は地上に戻ってからゆっくり聞きましょう」
「分かりました!」
と、そんなこんなで俺は取り急ぎまた壁を破壊し、崩れていく洞窟を横目に全員で無事脱出したのだった――。
「凄い、もう全然痛くない。 それに血も止まって傷まで塞がってます!」
「バウ!」
「おいおい、これお前の力なのかハク」
エミリアは勿論俺も驚いた。まさかハクにこんな回復能力があるなんて全く知らなかった。怪我を治してもらったエミリアはハクに抱きついて「ありがとう!」と何度も言っている。ハクも嬉しいのか尻尾をぶんぶん振ってみせた。
「なんだよハク、そんな事出来るなら森で自分の傷を治せば良かったじゃないか」
「バウバウ」
俺がそう言うと、ハクは首を横に振った。どうやら自分には出来ないらしい。
「そうなのか。まぁお前のお陰で助かったよハク。後はもう洞窟から出るだけだな」
「グリムさんもハクさんも本当にありがとうございます。ですが……一体どうやってここから出るのでしょう? 私達が通って来た唯一の道は塞がれてしまっていますし……」
「大丈夫だよ。道なんて幾らでも作れる。それにあの程度の防御壁なんて簡単に壊せるが、あっちは“ハズレ”だ――」
「え?」
そう。
魔法団の多くの足音が響いているあっちの道には、ノーバディの地面を這う音が大量に聞こえている。それに俺はさっきそこを通って来たが、あちこち崩れ落ちているせいで道が塞がっていた。
「なんか全員で魔法撃ちまくってなかった?」
「は、はい。さっきのノーバディを倒す為に一斉攻撃を……。その後もエンビア様の援護でもう1回一斉攻撃をしていました」
「やっぱりな。この洞窟ただでえ穴だらけだから崩れやすくなっているんだろうな。そこへその一斉攻撃とやらの衝撃が加わったせいで凄い崩れてたぞ。
しかもそれだけ魔法使ったとなると、もうアイツらはノーバディの残党と戦う力残ってないだろなぁ」
「そうなんですね……」
俺とエミリアがそんな会話をしていると、洞窟内の遠くから悲鳴が聞こえてきた。魔法団の奴らがノーバディの残党と遭遇したのだろう。
最初の数秒こそ勢いよく魔法が放たれている音がしたが、それも直ぐに消え去りどんどん声も無くなっていった。そして、最後に一際大きな女性の叫び声が響き、洞窟内は静かになった。
仕方がない。これが奴らの運命だった。それだけの事だ。
今の一部始終が聞こえていたのは勿論俺だけ――。
「エミリアを置き去りにしなかったら、また違う運命だったかもしれないのにな」
「ワウ」
「よし。じゃあ俺達も急いで出るぞ。こっちだ」
「あ、待って下さい!」
「俺が道を作るからそのまま付いて来てくれ。ただ足場が悪いから気を付けろよ」
エミリアにそう告げ、俺は剣で壁を破壊した。ここに来るまでの道中とノーバディとの戦いでそろそろ剣が限界。もって後2~3振りだな。それまでに地上に出ないと生き埋めだ。
「す、凄いですねグリムさん。この穴と言いさっきのノーバディと言い……強過ぎます」
「そうか?」
「はい! 絶対強過ぎますよ! どこの騎士団の方ですか?」
「いや、俺は騎士団じゃない」
「え、そうなんですか。あ、じゃあ剣を使っていますが魔法なんですねそれ! どこの魔法団ですか?」
「いや、魔法団でもない」
「じゃあフリーの冒険者なんですね!」
「いや、冒険者でもない」
「え……?」
普通であれば彼女の反応が自然だろう。勿論どこにも属さない一般の人もいるが、そもそもそんな普通の人がこんな場所にいるのは絶対に可笑しいからね。
「う~ん、ちょっと色々事情があるんだけど、エミリアはレオハート家って名前は知ってる?」
「え、はい勿論です。レオハート家は王国で1番有名な剣聖の名家です。逆にリューティス王国で知らない人なんていないですよ」
「まぁそうだよな。俺さ、実はそのレオハート家の人間だったんだよ。名前はグリム・レオハート」
俺がフルネームを出すと、エミリアは目を見開いて明らかに驚いている様子だった。
「え⁉ あ、貴方が“あの”グリム・レオハートさんだったんですか⁉」
彼女がそんなに驚く事も気になったが、それ以上に俺は“あの”という言い方が気になってしまった。
「えっと……何をそんなに驚いているんだ? しかも“あの”ってどういう意味?」
「あ、いえ、すみません……! 実はもう何年も前に1度、スキルが覚醒しないと言う理由だけでグリム・レオハートという方が辺境の森に飛ばされたと、風の噂で聞いた事がありまして……まさかその方が本当に実在してるとは――」
成程。
彼女が急に苦虫を嚙み潰した様に歯切れが悪くなったのも頷ける。俺が辺境の森に追放されてからもうかれこれ8年は経っているが、まさか王国内でそんな噂が広まっていたとは……。まぁしょうがないか。一応有名なレオハート家であって父さんの息子だったんだから。
エミリアは急にハッとした表情をして、俺なんかを気遣ってくれたのか慌てた様子で謝ってくれた。
「あ、あの、すみませんッ! 私失礼な事を……」
「ハハハ。別に大丈夫だよ。それにその噂本当だし。正真正銘、俺が辺境の森に追放されたグリム・レオハートです」
「そんな……」
まだ信じ難いのか、エミリアはその青い大きな瞳をパチパチさせながら俺を見て固まっていた。彼女からすれば死人でも見ているかの様な気分だろうな。王国で噂になったレオハート家の恥さらしがのうのうと生き残っていたんだから。そりゃ当然そういう反応にッ……「――とても嬉しいです!」
ん?
「実は私、ずっと貴方にお会いしてみたかったんです!」
どうやら聞き間違いではないらしい。
エミリアは急にパッと明るい表情を浮かべながら興奮気味にそう言ってきた。
「え、どういう事……?」
「まさか私なんかを何度も助けてくれた命の恩人が…、あの噂のグリム・レオハートさんだったなんて! 私とても感激しています!」
俺の質問の答えとなっていないエミリアは、そう言いながらグッと俺に近付き勢いよく手まで握ってきた。意味不明。
「あの! 急に失礼かと思いますが、宜しければ私を“仲間”にしてくれないでしょうか! どうかお願いします! まさか“呪われた世代の1人”にお会い出来るなんて……! それに私、どうしてもグリムさんの様に強くなりたいんですッ!」
理解不能の展開は更なる予想外なところに着地した。
本当に急過ぎるし色々ツッコミたい所だらけ。いつの間にこうなった? 突然噂を暴露され感激され仲間にしてくれと志願されている挙句に再び気になるワードが出てきた。
呪われた世代って何だ……?
うん。シンプルに困った――。
「あ、あのさ、一先ず落ち着いてくれるか? 兎に角今はここから急いで出る。そして今の話は地上に戻ってからゆっくり聞きましょう」
「分かりました!」
と、そんなこんなで俺は取り急ぎまた壁を破壊し、崩れていく洞窟を横目に全員で無事脱出したのだった――。