「何……?あの竜神王ジークリートを召喚しただって?」
「はい。なんか黙っててすみません……」
気が付いたら俺は謝っていた。……なんで?
「ほぉ。その召喚したジークリートは何処に?」
「ここです」
俺は自分の体を指差しながら言った。
すると次の刹那、マスターから発せられていた殺気が更に濃く鋭くなり、俺に向けられた。
おいおいおい……! 何故そうなる。やっぱ何か面倒な事なのか? 俺はただ普通にクエスト受けてモンスター討伐したいだけだぞ。
「いや、ちょっと待って下さい! 一旦落ち着いて話を整理させてもらってもいいですか?」
「……うむ、確かにそうだな。1度事態を把握しようか」
危ない人だなぁ。なんとか話を聞いてくれるみたいだけど、まずその殺気を向けないでくれ。
「ありがとうございます。えーと、じゃあ俺から説明させてもらいますね……。事の始まりは3年前のモンスター軍襲撃の日です――」
俺は当時の事をマスターに話した。母が死んだ事、自分が死にかけた事、そしてジークを召喚した事からさっきの追放まで……。思い出したくない事も多々あったが、嘘を付いてしまったお詫び代わりに俺は全てをマスターに話した。
♢♦♢
「――成程……。ルカ君、君の話はよく分かった。先ずは一言謝らせてくれ。あのモンスター軍の襲撃、当時私にもっと力があれば、被害を抑えられたに違いない……。
私の実力不足で辛い思いをさせてしまった様だ……。誠に申し訳ない」
話を聞き終えたマスターは、さっきまでの殺意が嘘かの如く俺に深く頭を下げた。
3年前……確かにあの戦いで全ての指揮を取っていたのはマスターであるゼインさんだ。そんな事は俺も当たり前に知っている。だがマスターのせいだなんて微塵も思った事はない。
「え!? や、止めて下さいよ! マスターは何も悪くないですから!
寧ろあんな数のモンスターの侵略なんて誰も止めきれません。その中でも貴方は多くの人を守ったじゃないですか!」
この人が頭を下げるなど以ての外だ。王国中の人々に調査したって誰1人マスターを責める人なんていない。それにマスターだってあの時奥さんを亡くしてる筈……。確か娘さんを守る為に犠牲になったとか……。
あのモンスター軍の侵略で被害に遭わなかった人の方が少ないって言うのに。
憎むべきはどう考えてもモンスターのみ――。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。でもまさか本当にあのジークリートを召喚するとはな。しかも体の中に」
「ええ、初めは俺も驚きました」
「話を聞いた限り、どうやらジークリートの力を上手くコントロールしている様だが……。私も冒険者を最低限管理するマスターとして、王国等に報告する際の確かな“証明”が欲しいところだ――」
「と、言いますと?」
「試すような事をして悪いが、君が確実にジークリートの力をものにしているか証明してもらいたい。
だからその為のクエストを1つ受けてくれんか?」
そりゃマスターも大変な仕事だからな。それで証明代わりになるなら、俺にとっても都合のいい話だ。
「分かりました。勿論お受けします。ただ……」
「どうした?」
「言いづらいんですけど、その……お恥ずかしながら生活費が底をついてまして、そのクエストって報酬貰えます……?
「ああ、それは勿論さ。グレイのパーティから追い出されてしまった事も聞いていたからね。
今回のクエストは先に前金で3割渡すつもりだ。残りは成功してからでどうかな?
おっと、思いがけない破格の条件。前金自体珍しいのに3割も貰えるのか。
「前金で3割も? それってもし失敗しても前金は……」
「返す必要はない」
マジか! なんと素晴らしい条件だ!こんな好待遇初めてだ。
「もし失敗した場合は、君とジークリートを葬らねばならんからね――」
怖っっわ。
急に寒気がしてきた。
「それは当然さ。主が操れない竜神王の魔力など、王国にとっても人々にとっても危険極まりないからね。それなりの対応は取るさ」
凄い優しい顔して言う事じゃないですよマスター。この人本当に恐ろしいな。
<我を殺すとな? たかが人間の分際で小癪な>
マスターには聞こえないのが功を奏したな。
「分かりました。そのクエスト受けます」
「そうか。期待しているよ」
こうして、俺はマスターからのクエストを受ける事にした。
流石と言うべきか、マスターの力によってもう今回のクエストの手続きは済んでいるらしい。
俺はギルドの受付でクエストの内容が記された紙と前金、3,000,000Gを受け取った。
「嘘……これで前金?」
3割で300万。一般的な年収分ぐらいあるぞ。
急に怖くなった俺は、渡されたクエスト内容を慌てて確認した。すると、その内容はモンスターの討伐……。しかもSランク指定の危険モンスターだった――。
ちょっと待て。確かにランクも内容も確認しなかった俺が悪い。だけどコレは酷くないか? いきなり1人でSランクのクエストなんて前代未聞だぞ。
「って、今更もうしょうがない。一応薬草も多めに……非常用の食料も多めに用意しておこう」
俺はクエストの準備の為、ギルドを出て買い出しに向かった――。
♢♦♢
~冒険者ギルド~
俺がギルドを後にした数分後、マスターはギルドで働くある1人の女性と話していた――。
「お疲れ様」
「あ、マスター、 お疲れ様です! ルカさんはどうなりました?」
「ああ、彼かい? 彼にはSランクのクエスト受けてもらったが、彼の実力なら問題ない。私だって大事な冒険者に無理をさせるつもりはないからね」
「そうですよね。安心しました」
「君は確か以前、ルカ君に助けてもらったと言っていたね」
「はい! もうかれこれ4年程前になりますが、モンスターに襲われていた所を助けてもらいました」
「そうかそうか。成程、それが“4年前”の話しか。じゃあやはりジークリートを召喚する前の事だな――」
「え? 何か言いました?」
「いやいや、私の独り言だ。ハハハハ、ジークリートの力か……。君はその力に頼らなくても、こうして人を救っている強い人間だよ――。
(グレイのパーティの報告内容を良く見れば、彼らではない別の力が働いていたことは明らか。彼らの実力だけではSランクなど到底不可能だからな……。
グレイ本人達に悟られる事無く、ルカ君は3年という歳月でパーティーランクをSまで上げた。しかも前線ではなくサポートとしてだから尚驚きだ。
己を犠牲に出来る強さや危険察知能力に判断力……。そして常に動くメンバー達を相手に的確なバックアップをする魔力コントロールや洞察力に観察力。
これら全てが紛れもない彼自身の強さであり、努力の賜物――。
幾らジークリートの魔力を持っているからと言って、同じSSSランクの私でもそこまで出来るかな……?)」
「――どうしたんですかマスター。急に黙り込んでしまって……」
「いやいや、何でもない。年を取ると独り言も増えるし考え事も増えてしまっていかん。
それより、ルカ君が戻ってきた時の為に新しい冒険者タグを用意しておいてくれ。勿論“黒色”のな――」
「分かりました!」
「それと、ジークリートの件は君しか知らない。だからね“マリア”君、この件は絶対に他言してはならない。分かってくれるね?」
「は、はい!勿論です! ルカさんにご迷惑が掛かるなら尚更言うつもりはありません!」
「ハハハハ、ありがとう。では私は部屋に戻るよ」
「お疲れ様です!」
部屋に戻ったマスターは1人、当時の事を思い出していた。
(やはりあの時空に現れた黒龍、あれがルカ君であったか……。
突如響き渡ったあの雄叫びによって、私もまた“彼に救われた”な――。
あの瞬間、雄叫びでモンスターの意識が逸らされていなかったら間違いなく私も殺されていただろう。
同じ冒険者の私には直ぐに分かった。あれが単なるモンスターの雄叫びではないと。そしてあの正体が竜神王ジークリートだと分かり、大聖堂の封印が解かれている痕跡を見つけた時はまさかと思っていた……。あれから行方を追っていたが、こんな近くにいるとはな。
本部や国王への報告は彼が戻ってきてからにしなくてはならん――。
それまでにどう報告するか手を打たねばな……。正直に伝えたらルカ君に及ぶ危険は計り知れない。それはだけは絶対に避けなければいかん。
マスターとしては間違っている。
だが私もまた、あの3年前の悲劇で彼に命を救われた1人だからね。
彼は命の恩人……。私は出来る限り彼に恩を返したいのだ――。)
「はい。なんか黙っててすみません……」
気が付いたら俺は謝っていた。……なんで?
「ほぉ。その召喚したジークリートは何処に?」
「ここです」
俺は自分の体を指差しながら言った。
すると次の刹那、マスターから発せられていた殺気が更に濃く鋭くなり、俺に向けられた。
おいおいおい……! 何故そうなる。やっぱ何か面倒な事なのか? 俺はただ普通にクエスト受けてモンスター討伐したいだけだぞ。
「いや、ちょっと待って下さい! 一旦落ち着いて話を整理させてもらってもいいですか?」
「……うむ、確かにそうだな。1度事態を把握しようか」
危ない人だなぁ。なんとか話を聞いてくれるみたいだけど、まずその殺気を向けないでくれ。
「ありがとうございます。えーと、じゃあ俺から説明させてもらいますね……。事の始まりは3年前のモンスター軍襲撃の日です――」
俺は当時の事をマスターに話した。母が死んだ事、自分が死にかけた事、そしてジークを召喚した事からさっきの追放まで……。思い出したくない事も多々あったが、嘘を付いてしまったお詫び代わりに俺は全てをマスターに話した。
♢♦♢
「――成程……。ルカ君、君の話はよく分かった。先ずは一言謝らせてくれ。あのモンスター軍の襲撃、当時私にもっと力があれば、被害を抑えられたに違いない……。
私の実力不足で辛い思いをさせてしまった様だ……。誠に申し訳ない」
話を聞き終えたマスターは、さっきまでの殺意が嘘かの如く俺に深く頭を下げた。
3年前……確かにあの戦いで全ての指揮を取っていたのはマスターであるゼインさんだ。そんな事は俺も当たり前に知っている。だがマスターのせいだなんて微塵も思った事はない。
「え!? や、止めて下さいよ! マスターは何も悪くないですから!
寧ろあんな数のモンスターの侵略なんて誰も止めきれません。その中でも貴方は多くの人を守ったじゃないですか!」
この人が頭を下げるなど以ての外だ。王国中の人々に調査したって誰1人マスターを責める人なんていない。それにマスターだってあの時奥さんを亡くしてる筈……。確か娘さんを守る為に犠牲になったとか……。
あのモンスター軍の侵略で被害に遭わなかった人の方が少ないって言うのに。
憎むべきはどう考えてもモンスターのみ――。
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。でもまさか本当にあのジークリートを召喚するとはな。しかも体の中に」
「ええ、初めは俺も驚きました」
「話を聞いた限り、どうやらジークリートの力を上手くコントロールしている様だが……。私も冒険者を最低限管理するマスターとして、王国等に報告する際の確かな“証明”が欲しいところだ――」
「と、言いますと?」
「試すような事をして悪いが、君が確実にジークリートの力をものにしているか証明してもらいたい。
だからその為のクエストを1つ受けてくれんか?」
そりゃマスターも大変な仕事だからな。それで証明代わりになるなら、俺にとっても都合のいい話だ。
「分かりました。勿論お受けします。ただ……」
「どうした?」
「言いづらいんですけど、その……お恥ずかしながら生活費が底をついてまして、そのクエストって報酬貰えます……?
「ああ、それは勿論さ。グレイのパーティから追い出されてしまった事も聞いていたからね。
今回のクエストは先に前金で3割渡すつもりだ。残りは成功してからでどうかな?
おっと、思いがけない破格の条件。前金自体珍しいのに3割も貰えるのか。
「前金で3割も? それってもし失敗しても前金は……」
「返す必要はない」
マジか! なんと素晴らしい条件だ!こんな好待遇初めてだ。
「もし失敗した場合は、君とジークリートを葬らねばならんからね――」
怖っっわ。
急に寒気がしてきた。
「それは当然さ。主が操れない竜神王の魔力など、王国にとっても人々にとっても危険極まりないからね。それなりの対応は取るさ」
凄い優しい顔して言う事じゃないですよマスター。この人本当に恐ろしいな。
<我を殺すとな? たかが人間の分際で小癪な>
マスターには聞こえないのが功を奏したな。
「分かりました。そのクエスト受けます」
「そうか。期待しているよ」
こうして、俺はマスターからのクエストを受ける事にした。
流石と言うべきか、マスターの力によってもう今回のクエストの手続きは済んでいるらしい。
俺はギルドの受付でクエストの内容が記された紙と前金、3,000,000Gを受け取った。
「嘘……これで前金?」
3割で300万。一般的な年収分ぐらいあるぞ。
急に怖くなった俺は、渡されたクエスト内容を慌てて確認した。すると、その内容はモンスターの討伐……。しかもSランク指定の危険モンスターだった――。
ちょっと待て。確かにランクも内容も確認しなかった俺が悪い。だけどコレは酷くないか? いきなり1人でSランクのクエストなんて前代未聞だぞ。
「って、今更もうしょうがない。一応薬草も多めに……非常用の食料も多めに用意しておこう」
俺はクエストの準備の為、ギルドを出て買い出しに向かった――。
♢♦♢
~冒険者ギルド~
俺がギルドを後にした数分後、マスターはギルドで働くある1人の女性と話していた――。
「お疲れ様」
「あ、マスター、 お疲れ様です! ルカさんはどうなりました?」
「ああ、彼かい? 彼にはSランクのクエスト受けてもらったが、彼の実力なら問題ない。私だって大事な冒険者に無理をさせるつもりはないからね」
「そうですよね。安心しました」
「君は確か以前、ルカ君に助けてもらったと言っていたね」
「はい! もうかれこれ4年程前になりますが、モンスターに襲われていた所を助けてもらいました」
「そうかそうか。成程、それが“4年前”の話しか。じゃあやはりジークリートを召喚する前の事だな――」
「え? 何か言いました?」
「いやいや、私の独り言だ。ハハハハ、ジークリートの力か……。君はその力に頼らなくても、こうして人を救っている強い人間だよ――。
(グレイのパーティの報告内容を良く見れば、彼らではない別の力が働いていたことは明らか。彼らの実力だけではSランクなど到底不可能だからな……。
グレイ本人達に悟られる事無く、ルカ君は3年という歳月でパーティーランクをSまで上げた。しかも前線ではなくサポートとしてだから尚驚きだ。
己を犠牲に出来る強さや危険察知能力に判断力……。そして常に動くメンバー達を相手に的確なバックアップをする魔力コントロールや洞察力に観察力。
これら全てが紛れもない彼自身の強さであり、努力の賜物――。
幾らジークリートの魔力を持っているからと言って、同じSSSランクの私でもそこまで出来るかな……?)」
「――どうしたんですかマスター。急に黙り込んでしまって……」
「いやいや、何でもない。年を取ると独り言も増えるし考え事も増えてしまっていかん。
それより、ルカ君が戻ってきた時の為に新しい冒険者タグを用意しておいてくれ。勿論“黒色”のな――」
「分かりました!」
「それと、ジークリートの件は君しか知らない。だからね“マリア”君、この件は絶対に他言してはならない。分かってくれるね?」
「は、はい!勿論です! ルカさんにご迷惑が掛かるなら尚更言うつもりはありません!」
「ハハハハ、ありがとう。では私は部屋に戻るよ」
「お疲れ様です!」
部屋に戻ったマスターは1人、当時の事を思い出していた。
(やはりあの時空に現れた黒龍、あれがルカ君であったか……。
突如響き渡ったあの雄叫びによって、私もまた“彼に救われた”な――。
あの瞬間、雄叫びでモンスターの意識が逸らされていなかったら間違いなく私も殺されていただろう。
同じ冒険者の私には直ぐに分かった。あれが単なるモンスターの雄叫びではないと。そしてあの正体が竜神王ジークリートだと分かり、大聖堂の封印が解かれている痕跡を見つけた時はまさかと思っていた……。あれから行方を追っていたが、こんな近くにいるとはな。
本部や国王への報告は彼が戻ってきてからにしなくてはならん――。
それまでにどう報告するか手を打たねばな……。正直に伝えたらルカ君に及ぶ危険は計り知れない。それはだけは絶対に避けなければいかん。
マスターとしては間違っている。
だが私もまた、あの3年前の悲劇で彼に命を救われた1人だからね。
彼は命の恩人……。私は出来る限り彼に恩を返したいのだ――。)